今年の医師国家試験が終了しました。医師国家試験は絶対評価か、相対評価か、ご存知ですか?
医学教育では評価は絶対評価(能力の有無で合否、成績をつける)を用いるべきとされています。医師に必要とされる能力を有したものに資格を与え、次の教育段階に進む能力を評価して卒業や進級判定を行なうという考え方です。能力がある学生は全員が合格することができますし、能力が伴わなければ、誰も合格できない場合も起こります。これに反し、相対評価は上位何名を合格にするという形式で、入学試験が相対評価のよい例です。日本の医師国家試験の合否判定は相対評価で行なわれていると言われており、毎年ほぼ一定数の合格者がでています。
日本の医学部卒業生が人数も能力も全く同じであるならば、一定数を合格にする相対評価で医師免許を与えたとしても毎年、ほぼ同じ能力の医師が生まれます。しかし、毎年、評価対象となる能力が変るならば、すなわち年度によって異なる出題傾向の問題で順位付けをされるならば、昨年合格した受験生が今年の試験であれば不合格となるかもしれません。現在のように少子化が進んでいながら医学部の定員が増加しているならば、毎年一定の合格者数が同じ医師の能力を保証するとは言えなくなります。医師という専門職の数をコントロールするために試験の合格者を決めることは望ましくないとも言われています。
相対評価の国家試験を受験する医学部学生は常に不安です。どんなに試験勉強をしても、周りがそれ以上に知識をつければ自分が落ちるかもしれません。臨床実習で技能や対人関係を学んでいる余裕が無くなることもうなづけます。もし、国家試験が絶対評価となり、必要な能力の有無で医師免許が取得できるようになったら、「医師に必要な幅広い能力の修得」「医師としての人間性の涵養」を目指す教育ができるようになると考える人は少なくありません。
一斉に行なう同一の試験で合格点を決めることこそが、最も正確な判定方法と誤解をするならば、今の試験を改善すべきという議論は生まれないでしょう。上位何名を合格者とするという相対評価の合否判定に試験の専門的知識は必要ありません。日本で絶対評価の試験が実施できないというのは、試験に関する知識も技術も社会の理解も遅れているためだとしたら、たいへん残念に思います。