医学教育学

教員日誌医歯学だより

No.10 医学教育を学ぶ (1)

平成23年度も最後となり、来週からは新人として学生・研修医、若手医師の指導にあたる人も多いことでしょう。そのような方に質問します。「あなたは教育者となります。教育する方法をどのように学びましたか?」

医学教育を担当する人の多くは医師、医療者ですので、自分が学び、先輩に教えられた経験をもとに、後輩・学生を教えることになります。自分が良い、効果的だ、と思っている方法だけが最善だと思わないでください。なぜならば、あなたの後輩・学生はあなたではないからです。研修医となった目の前の3人の後輩は違う知識と技能、興味、希望を持っています。何でも挑戦してやってみたいと思っているかもしれませんし、慎重に考え準備をしてからやってみたいと思っているかもしれません。早起きがいいか、徹夜がいいか、意見も別れるでしょう。100人の学生に記述試験をしたら、誰ひとり同じ文章を書かないでしょう。医学教育を学ぶということは、様々な学習者がいることを知り、どのような学習者に対しても適切な学習方法を提供することが指導者として必要だということに気づき、指導とは講義をして終わるものではなく学習者ができるようになることを支援し続けることだと納得し、本当の意味で最善の方法を選択して実践し、教育を評価できるようになることと言っていいでしょう。知識だけでもなく技能だけでもない教育者の総合的な能力を身につけることですし、教育する意欲と熱意をもち、学習者を信じ、教育者であり続けるための価値と方法を学ぶと言ってもよいでしょう。

先日とある場面で、「教育方法を5分で説明してください」といわれました。会議で概要を説明するのとは違い、医学教育の実践を学ぶ簡便な方法はありません。もしあなたが、何も知らないひとに「病気の診断ができるようになりたいので、診断方法を簡単に5分で説明してください。」と言われたらどう思いますか?ひとつの疾患の診断方法ならまだしも、あらゆる患者のあらゆる病気を想定して診断する方法は医学生が6年かかっても学びきれるものではありません。それでも医学生は最新の知識を学び、診断のためのコミュニケーションや診察をロールプレイや患者さんのご協力のもと実習し、場面毎に指導を受けて反省し、自習をしながら、時には自信に溢れ時には落ち込んでも少しずつ実践できる能力を身につけます。教育も同じです。説明を受けただけではだめです。形式だけわかっても適応できません。知識も技能も、教育者としての態度も含めて何時間も学び、そして生涯学び続けるのが医学教育です。

もちろん教育者としての立場により異なります。学習者個人の指導方法を数日で学ぶことで優れた教育を実践できるようになる人から、学部教育や研修プログラムの立案と評価をしなければならない人が数年のプログラムで医学教育を学ぶ、あるいは4-5年かけて医学教育の修士を取るという選択肢もあります。それは教育を受ける学生、医療者、そしてそれらの医療を受ける患者を考えたならば、非常に価値ある時間だと思います。

私自身も良い医学教育プログラムを提供できるよう学び続けたいと思っております。

 

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