米国が世界に投げかけた2023年問題に対し、今だ国としての方針は示さておりません。従って各大学は競争力を高めるために医学教育の質保証の内容を理解し、いつどのような認証制度が出来ても対応できるよう準備を始めています。前回に引き続き、世界の動向として、イギリスをご紹介したいと思います。
イギリスはアメリカとは異なる医学教育制度と教育の質保証を行っています。最も大きな違いは、「認証を受けた医学部卒業生を医師として登録する」ことです。医師国家試験こそが医師の質保証の方法であり、合格率が医学教育の評価であると思っている日本人は「それで大丈夫なのか」と疑問を抱くかもしれませんが、イギリス人は試験制度ではない自分たちの医学教育こそが、最もよい医師養成であると胸を張っています。
是非一度General Medical Council GMC のホームページで「Tomorrow’s doctors」の記述をご覧ください。医師としてのあり方まで医学生は修得する必要があるとし、学習成果基盤型教育の理念に基づいた教育を求めています。まず医学部卒業時に医学生が有している能力をアウトカムとして
Outcomes1-The doctor as a scholar and a scientist
Outcomes1-The doctor as a practitioner
Outcomes1-The doctor as a professional
を説明しています。その上で、それらを修得できる医学部の要件としてDomain1から9までの基準 Standard for delivery of teachingと、付票として修得すべき手技一覧や法制度等を示しています。この基準に従い、イギリスの医学部は医学教育の認証評価を受け、その評価結果とフィードバックの内容は誰もが見ることのできるようにGMCのホームページに公表されています。また、卒前教育、卒後研修、生涯教育全てをGMCが管理していることも特徴となっています。
試験では評価できない能力があります。試験は本来、教育の成果を測定するものであるはずなのですが、試験が重要であればある程、試験のための学習をする、試験対象ではないから修得しなくても良い、と学生も教員も考えるようになってしまいます。それでは、倫理観、責任感のある人間性豊かな、また科学的思考を有した優れた医師を養成することはできません。我が国の医学教育には「アウトカム」も認証評価制度もありません。2023年問題は、単に我が国の臨床実習の不十分さを指摘したものに留まらず、医学教育制度の見直しの必要性を問いかけているといってよいでしょう。