鹿児島大学 医歯学教育開発センター

教員日誌医歯学だより

No.16 良い医学教育の条件

しばらく間が空いてしまいました。医学部では共用試験、年度末の試験、入学試験があり、教員が最も忙しい時期です。教育の成果を実感し、新たな教育を計画する時期です。

日本の医学教育の質保証をめざす認証評価が活発に議論されています。近い将来、日本も欧米、韓国、台湾、その他の国と同様に、各医学部の教育の内容、運営、成果を「国家的組織」が評価する時代が来ます。この評価システムの目的は、医師とし働き始める卒業生が必要な能力を学んでいることを保証することです。学生が必要な学びができる環境を提供するためのシステム、そして患者さんから医師が信頼されるために必要な教育を監視するシステムと言ってもよいでしょう。

良い医学教育とはどのような教育でしょうか。

国家試験の合格率が高い→ペーパーテストである国家試験は医師の能力を全て評価していません。国家試験の勉強は、臨床実習など本来力を入れるべき教育を妨げていると言われています。

教員教員が手取り足取り丁寧に学生指導する→教員の指示通りに学習し、指摘されたことを暗記する学習では、求められる問題解決力は備わりません。卒業後、医師は業務を日々行いながら、一人で直面した問題を解決し、新たな知識や技能を習得し続ける生涯学習者であることを求められます。教員が全てを教える教育では、何をどうやっていつ学習するかが自分で判断できる自律した学生には育ちません。

シミュレータが充実した教育設備がある→シミュレータを用いた実習は学ぶ過程で非常に重要です。学生はシミュレータで技能を練習して「できる」ようになって初めて、患者さんでの診療を行います。患者さんの診療を行わないシミュレータの実習だけでは、教育はまだ途中です。

「偉い」先生が指導にあたる→学生は教員を自分の将来のモデルとして学びます。尊敬する医師が教員として学生指導にあたることはたいへん重要です。その一方で、学生に必要なのは「手の届く目標」であり、実践して学ぶ臨床実習です。「学生にはまだ早い」「学生はできなくて当然」と言われる教育では、学生は学べません。

これまでこのブログでも教育の評価に関する話題を取り上げてきましたが、必要条件を上げることはできても、十分だということは極めて難しいものです。良い教育かどうかを決めるのは、医学部の教員ではないでしょう。学んでいる学生であり、医師として働いている卒業生であり、それらの学生、卒業生と仕事をする先輩医師や看護師など医療チームのメンバーであり、患者さんです。いくら医学部教員が「これでいい」と言っても、もし、学生や患者さんが不満をもっていれば、まだまだ改善の余地があるのです。謙虚に学生、医療者、患者さんの声に耳を傾けて反省する姿勢を持っている教員がいる大学は、良い医学教育を行っているに違いありません。

卒業後何年も経ってから、大学で学んだことが苦しい医療の現場で役に立つと感じてもらえるような教育は、どのようにしたら評価できるでしょうか。

 

このページのTOPへ