米国は医学部・医学校(以下医学校)卒業生の輸入大国です。世界各国の医学校卒業生は先進国である米国で臨床医研修を受け、臨床医としての地位を築き、米国でのステータスを得ることを目指します。また、国内の医学校に入学できない米国人が他国の医学校を卒業した後に、米国での医師資格を得ようとします。国内で養成する医師数の圧倒的な不足を補う必要性と米国で医師として働きたいと希望する者の存在が前提となって、外国の医学校卒業生を受入れるための試験制度ECFMGが運営されてきました。
ECFMGでは以前より知識の客観試験に加え、実技試験による臨床能力と医師としての英語能力を評価してきました。しかし現在、医師には倫理観、人間性、責任感、生涯学習など試験では評価できない能力が必須であると考えられています。そのような能力の有無は医学生としてどのような学習をし、医学校がどのような能力を持った学生を卒業させているかを評価して初めてわかることです。米国は医学教育プログラムの認証制度により各医学校の教育の質を評価しており、認証された医学校卒業であることがレジデントのマッチング参加要件となるなど、評価結果が社会からの医学校の評価と直結する状況で教育の質が確保されてきました。従って、海外の医学校卒業生にも同じ条件を課すことにした結果が、日本で「2023年問題」といわれる事態となりました。この背景には米国内の医学校卒業生が増加しつつあり、5-6年後には必要とされる医師数を米国内で養成することになるため、もはや海外の医学校卒業生に頼る必要性が無くなる状況があるそうです。
米国の医学教育認証評価はLiaison Committee on Medical Education LCMEで実施され、評価基準はネットで公開されています。評価基準項目にはT組織 U教育プログラム(教育目標、構造、内容、指導と評価、カリキュラム運営、プログラムの効果の評価) V医学生(入学、サポート、学習環境) W教員 X教育資源 が挙げられており、教育のあらゆる情報が対象となっています。注目すべきは評価基準に具体的な数値がないことです。これが日本で「2023年問題」を議論する上での混乱を招きました。各医学校の教育の理念、状況、プログラムに応じて必要となる資源、時間等は異なります。医学教育の理論、理念、最新の動向と審査基準を十分に理解した審査員が全ての情報を把握した上で、多様性を尊重して教育の質を評価するシステムであるために数値を示していないのです。単純に数値で評価するよりも多大の労力を費やして専門性の高い正しい評価をしているとLCMEの担当者から伺った時に、米国の医学教育の質保証が日本の遥か先をいっていることが理解できました。
日本の医学教育の質保証制度がどのようなものになるのかが、日本の医学教育の質を表すことになるでしょう。「2023年問題」が日本の医学教育の質の向上を促進するようにと思います。