鹿児島大学 医歯学教育開発センター

教員日誌医歯学だより

No.14 医学生の学習のモチベーション (1) 内的な動機付け

最近、学生の学習のモチベーションが医学科でも大学でも、また国際学会でも話題になっておりました。学習者(学生など)の学習に対するモチベーションは教育活動の基盤であり、個人の学びに着目する成人教育学では重要な要素として議論されています。学生の意欲が低下していると教員が評価するならば、その原因を探り、解決を図らなければなりません。

学習に対するモチベーションはどのような時に高まるでしょうか。入学試験前学生は長い時間を割いて勉強します。試験に合格するための学習は、外的なニーズによる動機付けと考え、「もっと知りたい」「それができるようになりたい」という内的なニーズによる学習と区別します。教員が「これが試験に出るから覚えておくように」「国家試験の合格をめざしなさい」と言えば言う程、学生の内的なニーズから教育が乖離していきます。試験対策が重要な学習になり、学ぶことよりも(できれば楽をして)試験で良い点数をとる学習習慣を学生に促すことになります。当然のことながら、試験にでないことは学ぶ価値のないこととなり、試験が終われば記憶したことは忘れます。

質の高い学習につながる動機は間違いなく内的なニーズによるものです。知識を得て新しい世界を発見することの喜びは、もっと学びたいという意欲をかき立てます。目の前の学習が、なりたい自分(医学生であればめざす医師)に直結していると認識した時、試験に出るか出ないかに関わらず、理解したい、修得したいと思うのです。医学生が興味ある学習を行った時に、良い意味で期待を裏切るすばらしい学習成果をあげることを知っている教員も多いでしょう。臨床実習が始まった学生が真剣な表情で病棟に向かう姿も目にします。学生は試験のためだけに学ぶものと教員が考えているとしたら、それは大きな誤解ではないでしょうか。学生ひとりひとりの内的な学習のニーズが、能動的で自主的な学習を生み、学生はより広くより深く学び、そこで得た知識は長く残ることが期待され、新たな学習へとつながっていきます。

内的なニーズは学生個人の持つ状況により生み出されるものですが、教員が学生の内的なニーズを引き出すような関わりをすることが必要とされる場面も、医学教育では非常に多いでしょう。基礎医学を学ぶ時、膨大に感じられる「覚えなければいけない事実」が、近い将来の自分に役立つ知識であり、自分にとって意義があると認識することは、まだ臨床を知らない学生だからこそ難しいのです。医学教育に早期体験学習や臨床症例を用いた問題基盤型教育が取り入れられた理由には、学生のモチベーションを高め、主体的な学習を促すと期待されたこともあげられます。医師を目指している学生のモチベーションを高めることは教育の計画を工夫することで可能であり、教員はそのための教育技能にも関心を持っていただければと思うのです。

 

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