教育にステークホルダーstakeholderという言葉があります。その教育を行う人〔教師〕と教育機関の責任者だけが教育を決定する権利があるのではなく、その教育を受ける学習者(学生、研修医など)、そして教育の影響を受けることになる人、医学教育では患者、医療関係者等がステークホルダーと呼ばれる人達であり、教育を実施するものは、ステークホルダーの意向を尊重し、教育内容を説明することが求められると考えられています。
教育は学習者中心 student-centered, student orientedが望ましいという考えはかなり浸透してきましたが、教育の企画に学生の意見を反映させ、学びの成果や教育の質について学生に説明をすべきという考えは、日本ではまだまだ遅れています。一方、欧米では教育活動、学会活動に対して学生が意見を述べることが認められており、これらの運営に重要な役割を演じています。前回ご紹介したWFMEの医学教育の審査基準のひとつである「教務委員会に学生が加わっていること」は、優れた医学教育をめざすならば当然なのですが、これを実施している医学部が日本では決して多くはないでしょう。
日本の医学生にそれができるのか。答えはyesです。私達は医学教育指導者向けワークショップに参加した学生、研修医が実に的を得た優れた意見を述べることをたびたび経験しています。臨床研修委員会の正式メンバーとして学生、研修医が出席し、意見を述べている病院もあります。また、本学でも授業評価アンケートに学生ならではの視点で授業の長所も欠点も指摘されていることを目にすると、この学生の意見を反映させることにより教育は確実に良くなるという思いを強くします。自分の学びが自分だけではなく広く社会に影響を及ぼすことを自覚し、教育を見極める目を持っている学習者を教育に参加させることで、教員は刺激を受け、責任を自覚し、そしてまた学習者も成長します。医学教育では学習者は近い将来の指導者です。学習者とともに教育を作り上げる意義は極めて大きいといえるでしょう。