国際離島医療学分野(旧 離島医療学講座)が開講されて19年目(開講は2002年3月15日)になります。新たな分野が新設されるにあたり、まず、ウイルス学講座の教授だった園田俊郎教授が教授に就任し、多分野の専門家によるシンポジウムを重ねながら、離島医療学講座のあり方を1年間に渡り検討し、教室の方向性が離島を活用した地域医療教育とフィールド疫学研究、国際貢献に固まった上で、嶽ア俊郎教授が就任しました。
卒前教育では、離島医療を地域医療の医学教育モデルとして活用しています。他の地域と海で隔絶された離島での医療には、より高い完結性が求められます。その中心となっているのがプライマリ・ケアであり、その地域の特色を生かした地域包括ケア・医療が実践され、近年、重要視されてきた在宅・訪問診療も以前から行われていました。一方で、救急医療や専門医療も大切で、人口や地理的条件に応じた工夫が行われています。
鹿児島県における離島医療の特徴や体制などの背景をもとに、離島へき地を地域医療を学ぶモデルとして教育を行っています。さらに開講当時から離島医療実習に取組み、2007年度からは離島・地域医療実習を医学科学生全員に必須実習として開始しました。この「見て、感じて、考える」実習は、地域医療を実際に理解する上で大変有用であります。2013年度からは、当教室の教員も兼務する離島へき地医療人育成センターと地域医療学分野に実習実務を移行し、より多くのスタッフのもと、内容の充実が図られています。
大学院の博士課程および修士課程では、離島医療、地域医療に加え、離島フィールドにおける分子疫学研究、大洋州など国際島嶼地域における健康問題など、幅広い分野の教育を担当しています。疫学研究をテーマとする当教室の学生は、記述疫学、遺伝子多型を用いた分析疫学、地域コーホート研究、栄養疫学について、フィールドでのデータ収集から実験室での遺伝子多型解析、教室での統計学的解析、科学的論文作成について学べます。
当教室が最も力を注いでいるのが、2005年から開始し2035年まで継続する、全国多施設共同コーホート(J-MICC)研究です。全国の大学や研究所と共同して収集した10万人の疫学情報やDNAを含む血液検体を用いて行う研究とともに、J-MICC研究で収集した鹿児島の情報や試料を独自に用いて行う研究です。これは、学内の各教室や地元市町村、鹿児島県、関係医療・研究機関に協力を得ながら共同で進めており、地域にも貢献している研究です。当教室も鹿児島フィールドとして、あまみ島嶼地域の5島、および鹿児島県本土の3地域の13市町村で、分子疫学コーホート研究のベースライン調査を始めました。5年目の第2次調査をはさんで、20年にわたる追跡調査を行っており、今年は開始して16年目に入ります。集められたデータや資料は、J-MICC研究全体で10万人のデータとしてまとめ、テーマごとにそれぞれの共同研究機関が分担して解析する部分と、それぞれのフィールドで集められたデータを用いて独自に解析する部分が活用できます。そのため、大学院生も多彩なデータや解析ができ、多くの業績も出つつあります。国際的人材育成の一環として、留学生を受け入れ、このデータを用いた研究を行い、博士の学位を修得しています。
国際貢献としては、2002年から鹿児島県離島地域を活用したJICA研修コースを実施しており、大洋州やアジア、カリブ海の島嶼国から研修員の受け入れを行っています。また、フィリピン、ソロモン諸島、パプア・ニューギニア、フィージー、サモア、キリバスも訪問し、ワークショップなどを通じて、帰国後の研修員の活動を支援しました。
今後とも人材育成と学術面を通して、離島へき地医療に貢献していきたいと考えています。
2020年4月
国際離島医療学分野 教授 嶽崎俊郎
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