−国際島嶼医療学の目指すもの−
平成14年3月に新設された離島医療学講座は、平成15年10月に国際島嶼医療学講座として生まれ変わり、同11月より私が教授として赴任しました。
これまでネガティブナなイメージで見られることの多かった島嶼が見直されつつあります。島嶼には全人的な地域に密着した医療が必要であり、それを実践している多くの医療関係者がいます。これは、20世紀に追い続けてきた都市型の医療で失われつつあるもので、改めて島嶼医療から学ぶべきものです。人々の暮らしも豊かな自然を受け入れ、スローライフを実践しています。この中から多くの百寿者が生まれ、ギネスブックにも登録されたことはご存じだと思います。
島嶼医療学、離島医療学という学問体系はまだ、ありませんが、その目指すものは島嶼における地域包括医療の確立です。そのための人材育成、研究、その結果(エビデンス)に基づいた情報発信、医療関係機関との連携やネットワーク形成が当講座の目指すものであり、この経験を基に東・東南アジア諸国を中心に国際共同研究や人材育成を展開することにより、国際化の視点を導入します。
私は鹿児島県に生まれ、大学卒業後、鹿児島に戻り、11年間、小児科医として勤務しました。その間、臨床では一般的な小児疾患の他、小児血液悪性疾患の診断や治療、研究ではHTLV-I母子感染予防に関する共同研究に携わり、更にJICAの「ポリオ対策プロジェクト」の長期専門家として中国にも1年余り派遣されました。この中国滞在中に、予防を行うために疫学が必要であり、もっと勉強したいと感じ、平成5年より名古屋の愛知県がんセンター研究所・疫学・予防部に移動しました。ここでは生活習慣に関わるがん予防の要因探索研究に携わりました。病院をベースとした症例・対照研究、一般住民を対象にしたがんや高齢者に関するコーホート研究、長崎県離島住民を対象にしたHTLV-Iの疫学研究、ボリビアやチベットにおけるHTLV-Iの民族疫学的研究などを行いました。更に、中国南京の江蘇省腫瘤防治研究所と共同で胃・食道がんに関する分子疫学研究に携わり、生活習慣に伴うがんの発生が遺伝子多型を指標とした個人の体質によって異なることを報告し、がん予防に有用な情報提供を行いました。この研究は現在、大腸がんを対象に中国4か所での国際共同研究に発展しています。
この講座はまだ、開設されたばかりですが、すでに、のべ88名の医学生を対象に離島の病院や診療所における実習、南西諸島における長寿の要因に関する研究、中国やボリビアとのがん予防に関する国際共同研究、JICAの研修生(インドネシア、フィリピン)の受け入れなど実績を上げつつあります。更に、平成17年度からは文部科学省科学研究費による10年間にわたるがんのゲノムコーホート研究のフィールドとして鹿児島の島嶼地域が選ばれ、地域の実情と個人の特性に合わせたテーラーメードながん予防情報を得るべく、1万人の採血と生活習慣情報収集の準備を進めているところです。
この講座は鹿児島の特性を生かした全国にも類を見ないユニークな講座です。今後ともこの講座の活動に興味を持って頂き、ご支援、ご協力の程、宜しくお願いします。
嶽崎俊郎教授 プロフィール
略歴
1956年5月 鹿児島県大口市に生まれる
1982年3月 長崎大学医学部卒業
1982年 鹿児島大学医学部付属病院・研修医(小児科)
1983年 宮崎県串間市国民健康保険病院(小児科)
1984年 鹿児島大学医学部付属病院・研修医(小児科)
1984年 鹿児島県曽於郡医師会立病院(小児科)
1985年 鹿児島大学医学部付属病院・医員(小児科)
1986年 熊本県龍ヶ岳町立上天草総合病院(小児科)
1987年 鹿児島大学医学部付属病院・医員(小児科)
1990年 鹿児島大学医学部・文部教官助手(小児科)
1991年 日本国際協力事業団(JICA)の長期専門家として中国へ派遣
1992年 帰国 (ポリオ対策プロジェクト)
1993年 愛知県がんセンター・主任研究員(研究所・疫学部)
2002年 愛知県がんセンター・室長に昇任(研究所/疫学・予防部/がん予防研究室)
2003年 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科・教授(国際島嶼医療学)
現在に至る
専門領域
国際島嶼医療学、疫学、がん、長寿科学、小児科
研究テーマ
国際島嶼医療学、がん分子疫学、長寿分子疫学
研究内容のキーワード
島嶼医療、国際、がん、長寿、疫学、環境要因、宿主(遺伝)要因、相互作用、食生活習慣
最近の研究業績等
1.
Diet and lung cancer risk from
a 14-year population-based prospective study in
2.
Geographical Variation in
Nutrient Intake between Urban and Rural Areas of
3. Dietary factors protective against breast cancer in Japanese premenopausal and postmenopausal women. Hirose K., Takezaki T., Hamajima N., Miura S., Tajima K. Int. J. Cancer, 107(2), 276-282, (2003).
4.
Epidemiology of pancreatic
cancer in
5.
The
5th JICA Training Course, Community-based Cancer Prevention (Epidemiological
Approach). Takezaki T. Asian Pac. J.
Cancer Prev., 4:169-174, (2003).
6. The hOGG1 ser326cys polymorphism and modification by environmental factors of stomach cancer risk in Chinese. Takezaki T., Gao C.M., Wu J.Z., Li Z.Y., Wang J.D., Ding J.H., Liu Y.T., Hu X., Xu T.L., Tajima K., Sugimura H. Int. J. Cancer, 99(4), 624-627, (2002).
7. Interaction between cytochrome P450 2E1 polymorphisms and environmental factors with risk of esophageal and stomach cancers in Chinese. Gao C., Takezaki T., Wu J., Li Z., Wang J., Ding J., Liu Y., Hu X., Xu T., Tajima K., Sugimura H. Cancer Epidemiol. Biomarkers Prev., 11(1), 29-34, (2002).
8.
GSTM1 and GSTT1 Genotype,
Smoking, Consumption of Alcohol and Tea and Risk of Esophageal and Stomach
Cancers: A Case-Control Study of a High-incidence Area in
9. Dietary factors and lung cancer risk in Japanese: with special reference to fish consumption and adenocarcinomas. Takezaki T., Hirose K., Inoue M., Hamajima N., Yatabe Y., Mitsudomi T., Sugiura T., Kuroishi T., Tajima K. Br. J. Cancer, 84(9), 1199-1206, (2001).
10.
Dietary protective and risk
factors for esophageal and stomach cancers in a low-epidemic area for stomach
cancer in
11. Smoking and lung cancer risk in American and Japanese men: an international case-control study. Stellman SD, Takezaki T, Wang L, Chen Y, Citron ML, Djordjevic MV, Harlap S, Muscat JE, Neugut AI, Wynder AL, Ogawa H, Tajima K, Aoki K. Cancer Epidemiol. Biomarkers Prev., 10(11), 1193-1199, (2001).
12. Genotype frequencies of cyclooxygenase 2 (COX2) rare polymorphisms for Japanese with and without colorectal cancer. Hamajima N., Takezaki T., Matsuo K., Saito T., Inoue M., Hirai T., Kato T., Ozeki J., Tajima K. Asian Pacific J. Cancer Prev., 2(1), 57-62, (2001).
13. Gene-environment interaction between an aldehyde dehydrogenase-2 (ALDH2) polymorphism and alcohol consumption for the risk of esophageal cancer. Matsuo K., Hamajima N., Shinoda M., Hatooka S., Inoue M., Takezaki T., Tajima K. Carcinogenesis, 22(6), 913-916, (2001).
14. Subsite-specific risk factors for hypopharyngeal and esophageal cancer (Japan). Takezaki T., Shinoda M., Hatooka S., Hasegawa Y., Nakamura S., Hirose K., Inoue M., Hamajima N., Kuroishi T., Matsuura H., Tajima K. Cancer Causes Control, 11(7), 597-608, (2000).
15. Inhibitory effect of maternal antibody on mother-to-child transmission of human T-lymphotropic virus type I. Takahashi K., Takezaki T., Oki T., Kawakami K., Yashiki S., Fujiyoshi T., Usuku K., Mueller N., The Mother-to-child Transmission Study Group, Osame M., Miyata K., Nagata Y., Sonoda S. Int. J. Cancer, 49(5), 1-5, (1991).
学会活動
日本小児科学会
日本癌学会
日本疫学会 (評議員)
日本公衆衛生学会 (査読委員)
日本がん疫学研究会
International Epidemiological Association
日本がん予防研究会
日本がん分子疫学研究会
日本国際保健医療学会 (評議員)
受賞
2001年 第11回日本疫学会奨励賞