研究の紹介

1)分子疫学コーホート研究

2005年に日本多施設共同コーホート(J-MICC)研究(文部科学省科学研究費補助金:特定領域研究「分子疫学コーホート研究の支援に関する研究」班/研究代表者:浜島信之)の一環として開始しました。本学を含む全国14施設で10万人を対象にベースライン調査と20年の追跡調査を行いながら、1)がんの環境・宿主要因とその相互作用の探索、2)がんの発病前診断研究、3)ベースライン時の横断的研究を行います。
詳細は日本多施設共同コーホート研究(J-MICC)のホームページへ

当講座では、あまみ島嶼地域(奄美大島、喜界島、徳之島、沖永良部島、与論島)の健康診査受診者5,015人にご協力を頂き、2005-2008年にベースライン調査を行いました(あまみの生活習慣病予防と長寿に関する研究)。さらに、2012年には鹿児島県本土地域3か所(鹿屋市、伊佐市、出水市)の同対象者2,623人のベースライン調査も行い(生活習慣病予防と長寿に関する研究)、計7,638人を対象に、2025年まで追跡調査を行っています。鹿児島地域でも、がん、心・脳血管疾患や糖尿病などの生活習慣病の予防をテーマに同共同研究ならびに鹿児島大学独自の研究を進めています。将来はこの研究を足がかりに長寿に関する研究への展開も行いたいと考えています。


また、病気にかかったどうかの調査は、ベースラインデータとともに最も重要な情報になります。そのため、様々な方法(直接聞き取り、手紙、電話)で病気の情報を集めています。

鹿児島県が医療機関から集めているがん登録情報も有用な情報になります。そのため、県の委員会で審査して頂いた上で、適切な方法でがん登録情報も本研究に使用します。詳細はこちらをご覧下さい。

さらに、2016年からは全国がん登録情報も、法律と国の審査のもと、適切な方法で本研究に使用します。
詳細はこちらをご覧下さい。

また、2021 年からは、岩手医科大学を中心に、私達が加わっている日本多施設共同コー ホート研究(J-MICC)、多目的コホート研究(国立がん研究センター)、鶴岡メタボロームコ ホート研究(慶応義塾大学医学部)、愛知県がんセンター病院疫学研究(愛知県がんセン ター研究所)、いわて東北メディカル・メガバンク機構(岩手医科大学)、東北メディカル・メ ガバンク機構(東北大学)が連携して、国内最大級の大規模ゲノムコホート連携研究は始 まり、国内で行われている主な研究が結集して、新たな研究みの枠組みも並行して始まり ます。
詳細はこちらをご覧下さい。



当研究の1番の目的である「がんの環境・宿主要因とその相互作用の探索」で期待される成果の例として、アルコール摂取と食道がんへの罹りやすさの関係があります。アルコールが代謝されてできるアセトアルデヒド(二日酔いの原因物質)は発がんに関係することが知られています。このアセトアルデヒドを分解する能力には個人差があり、分解能力が強い人(Glu/Glu型)に比べ、弱い人(Glu/Lys型またはLys/Lys型)は同じ様に飲酒した場合に、食道がんを発生する危険性が飲酒しない人に比べ50倍とより高くなることが報告されています(Matsuo K, et al. Carcinogenesis 22:913,2001)。この他にも多くの生活習慣や体質の組み合わせがあり、病気の発生や予防に関係しています。しかし、まだ、解らないことも多く、さらなる研究が必要です。

また、あまみには特有の食材や食生活があり、これらが生活習慣病予防にどのように有用であるかについても、科学的な根拠に基づいた知見が得られます。

【写真注釈】
2005度から2008年にかけ、和泊町、知名町、伊仙町、徳之島町、天城町、与論町、奄美市名瀬、瀬戸内町、奄美市笠利、龍郷町、喜界町で調査を行いました。対象者は住民基本健康診査を受診した35〜69歳の男女です。

離島の調査では、研究スタッフの確保に加え、検体処理と保存を島内で行うた
めの準備と設営が大変でした。幸い、地元市町村や医療機関の協力が得られ、
これまでの調査は、特に問題なく行うことができました。
地元の熱心な協力にはいつも大変、感謝しています。

2)一般住民における脂肪肝の分布や推移に関する研究

3)鹿児島県の離島・農村部住民における健診結果の地域差および経年変化に関する研究

当分野では、鹿児島県の離島・農村部住民における健康問題に注目して、JA鹿児島厚生連と共同して健診結果の地域差や経年変化を明らかにする目的で、これまでに蓄積された健診データを解析しています。これにより、地域特有の課題や将来の課題を明らかにして、地域住民の疾病予防や健康増進活動に資する情報を提示することができます。

例えば、図に示した高血圧の1996年から2017年までの変化をみると、いずれの地域でも、高血圧を有するものの割合は低下傾向を示しています。これは、減塩や野菜摂取などの食生活の改善と、高血圧治療の進歩や普及による効果だと考えられます。ただ、地域差は小さくなってきているとはいえ、未だ存在し、地域の課題があることが分かります。

研究にあたっては、倫理委員会の承認を得た上で、個人の情報を収集しない形で行っていますので、研究結果の発表や学術雑誌などへの出版に際しては個人が特定されるような情報は掲載されません。詳しい説明は、ここ をご覧下さい。


4)タラソテラピーの健康増進効果に関する研究

平成17年度に与論町、瀬戸内町、和泊町において、同町および鹿児島タラソ研究会、鹿児島県などと共同でタラソテラピーの健康増進効果に関する介入試験を行いました。体調の改善、脂質や耐糖能異常の改善、体力の向上等に加え、心理面での改善が認められました。さらに平成18年度にも与論町と瀬戸内町、奄美市でも介入試験を行いました。現在、上記1)の日本多施設共同コーホート研究(J-MICC)と連携して、沖永良部でタラソ施設利用者の追跡調査を継続中です。

   


5)鹿児島県離島と本土地域における動脈硬化分布に関する比較疫学研究

上記1)の分子疫学コーホート研究で得られた動脈硬化の検査結果を鹿児島県本土の厚生連健康管理センターで行われた動脈硬化の検査結果を比較検討して、それぞれの地域における特徴を明らかにすることが目的です。長寿者が多いあまみ離島地域における動脈硬化の分布がどうなっているのか、非常に興味深い結果が期待できます。鹿児島県本土の厚生連健康管理センターで行われた検査結果は、だれのデータか解らないようにして(個人情報を削除)、鹿児島大学大学院医歯学総合研究科の疫学研究等倫理審査委員会および厚生連の許可を得て、研究に使わせて頂いています。

本研究の問い合わせ先:嶽崎俊郎(たけざきとしろう)電話:099-275-6851


6)あまみ島嶼地域における簡易版食物摂取頻度調査票の妥当性評価に関する研究

上記1)の分子疫学コーホート研究で用いている簡易版食物摂取頻度調査票は、東海地域で開発され科学的に評価されたものです。本研究の目的は、あまみ地域の特有の食生活を考慮した上で、同調査票の再評価を行うことです。平成21年度7月から、奄美市名瀬を中心に90名近くの方にご協力頂いて食事調査を行っています。この食事調査は、鹿児島県の受託研究として行っている「長寿・健康の島」継承・発展事業の一環でもあり、この結果は早世予防対策を立案する上で重要な資料となります。

7)大腸がん検診の有効性評価に関わる疫学研究

大腸がん罹患数は約50年前と比較すると男性で約7.3倍、女性で約5.9倍に増加しつつ、検診を含むその対策は重要です。離島においても大腸がんは増えつつあります。大腸がんの二次予防として便潜血検査によるスクリーニングが行われていますが、一部で行われているS状結腸鏡を含む検診法に関してはその有効性の評価が未だ不十分です。
 本研究は、S状結腸鏡を含む大規模な大腸がん検診を実施している医療機関(高野病院/熊本市)と協同し、これまでに行われた検診結果をデータベース化し大腸がん検診を様々な角度から評価することを目的としています。大腸がん検診結果は、鹿児島大学大学院医歯学総合研究科の疫学研究等倫理審査委員会および高野病院の許可を得た上で、個人が特定される情報を含まない形で、研究に必要な情報のみ高野病院から鹿児島大学に提供され、研究に使わせて頂いています。もし、研究に使って欲しくない方がいらっしゃいましたら、下記に連絡下さい。研究対象者から除外します。

本研究の問い合わせ先:嶽崎俊郎(たけざきとしろう)電話:099-275-6853
詳しくはここをクリック