学士力とプロフェッショナリズムの習得が求められる医学部教育過程

大学での医療人育成が他の養成機関と明確に異なる点は、論理的批判的思考、問題解決力、コミュニケーション能力、生涯学習能力等、中央教育審議会答申で学士力とされた能力に基盤を置く臨床能力の修得を目標としている点です。また、医学教育では知識偏重の教育に対する改善が叫ばれ、実践力の修得と客観的臨床能力試験の導入による学習成果の評価が求められています。近年ではさらに医療専門職としての態度、価値観、生き方であるプロフェッショナリズムの修得が求められるようになりました。

鹿児島大学の地域性と本取組の背景

離島へき地など医療・保健・福祉へのアクセスが制限され、医療の格差が生じている地域での医療職個人の責任は極めて重いものがあります。ひとりの医師に求められる業務は広く、医師不在の離島では看護師が医療の担い手として重要な役割を果たしています。地域住民が安心できる環境を維持するために、医師、医療専門職等(以下医療専門職)の専門性を最大限に活かして補いあうことが必要となっています。地域が求めている医療人とは、患者と社会の利益という視点に立ち、医療者と機関が距離、時間を超えて効果的に高度に連携したチーム医療を責任をもって実践できるプロフェッショナリズムを有した人材であるといえます。
医学科と保健学科では離島へき地を含む地域で医療専門職として生涯働く医療人の育成という教育のミッションを達成するためには、地域の特徴を教育に活かし、教育に関わる指導者が連携して成果の期待できるプログラムを遂行する体制整備が望まれており、本取組の背景となっています。

医療専門職のプロフェッショナリズム

  • 専門職としての知識、臨床技能、コミュニケーション能力を有し、自己評価と自己学習能力を備えて生涯学習できる
  • 患者を尊重し、責任を果たして信頼され、規則を遵守し、利他的に対応する医療チームの一員として活躍する
  • 倫理的行動をとり、自己の限界を知り、ジレンマにも適切に対応できる
  • 地域医療においては、地域特有の文化や医療体制で住民の健康増進や医療問題の解決にリーダーシップを発揮し、地域の医療に責任を果たす

本取組の目的と特色

1.地域の医療を担うプロフェッショナリズムを有した医療人の育成

プロフェッショナリズムの修得を目指し、教育プログラムと実施体制、学習成果の把握と評価体制を構築して卒業認定に至る教育課程を整備することを目的とします。

地域で活躍する医師・医療専門職育成

2.従来の専門職間連携教育Interprofessional Education(IPE)との相違

これまで、他教育機関で先進的取組として進められたIPEは、医療の高度化と専門職の分化を背景とし、豊富な人材と職種、容易な医療へのアクセスを基盤とした、良質で、安全・効率的な医療の提供のための協働に主眼が置かれていました。一方、プロフェッショナリズムは学び続けるものであり、入学早期から修得を開始し、優れたロールモデルの基で、体験に対する振り返りを行い学習することの重要性が指摘されています。
本取組では、IPEを取り入れ、さらに地域で活躍する医療人育成のために、地域を学習の重要な場と位置付け、経験と振り返りを継続する学習により、専門性と協働の修得を目指す点を特色としています。

3.大学を中心として地域に拡大した教育体制の整備

大学では問題解決力、基本的臨床技能、自己主導型学習の基盤形成を行い、また、先進医療を行っている大学病院で教員、医療スタッフの指導を受ける臨床実習を経験し、チーム医療を学びます。学習成果の評価も責任を持って行います。地域では頻度の高い疾患の一次、二次医療の体験学習、臨床実習、介護・予防・健康増進を目的とした医療者の業務を体験することができます。このような大学と地域の教育機関・医療機関としての特徴を生かし、医療者が学ぶべき様々な医療現場での経験を教育に体系的に組み入れた活かした教育を行います。
離島へき地を含む地域での実習で効果的に学習するためには優れた指導医・指導者が必要となります。指導者の乏しい地域には大学教員が赴いて指導に当たり、また、地域の指導者養成も本取組で行います。すなわち、大学が地域での医療者育成に必要な人材育成を行って教育・研修の場としての地域の機能を高めることにより、学生が経験する医療現場の偏りと、欧米に比べ圧倒的に教員が少ない医学部の欠点を補い、医師不足・偏在への対策である医学部学生定員増にも対応して、高い教育効果が期待できる地域に拡大した教育組織を整備することをめざします。

地域で活躍する医師・医療専門職育成