取組の達成目標

1)生涯医療に携わる医療人育成をめざすプロフェッショナリズム教育の推進

臨床能力に加え、地域医療と医療専門職のキャリア形成を理解し、実践の場で活躍する優れたロールモデルの下でプロフェッショナリズムの修得を図る継続性、一貫性のある教育を推進します。

2)多様な連携による教育指導体制、指導者組織の構築

学科、附属病院、地域基幹病院、診療所、離島へき地医療機関、保健・福祉関連施設、医療専門職の連携による教育を実施し、不足する指導者を養成し、指導体制を構築します。

3)学生の評価とフィードバック(臨床の場での臨床能力評価、ポートフォリオ等)

プロフェッショナリズム修得の評価と、評価に基づく指導を行うために、現場での臨床能力評価と、ポートフォリオを活用したプロフェッショナリズムの評価及びフィードバックを実施します。さらに指導者と学生が学習成果を共有する場を構築します。

学生の評価とフィードバック

具体的内容

1.教育の運営と実施

1)地域医療プロフェッショナリズム育成の連携教育

地域へ教育の場を拡大し専門職種間連携を含む継続性のある教育を計画し、実施します。

A.IPE:医学科と保健学科の協働によるIPE

1〜4年次までの両学科の学生が、患者並びに医療専門職の機能とチーム医療の理解のための学内外での体験学習、グループ討議、臨床倫理事例検討、医療安全事例検討を行います。5年次に臨床実習では病院所属医療専門職の協力も得て、専門職間連携を実習する機会を確保することとしました。また、医療者間・職種間の協働を促進するために、コミュニケーション学習、基本的臨床技能実習に両学科の教員、学生が参加する体制も整えます。

B.大学と地域の連携教育

シャドウイング(医学科)

Shadowingには「人につきっきりで仕事を覚える」という意味があり、診療参加型臨床実習とは異なり、「見て学ぶ」、「そばにいて学ぶ」ことを主体とする実習です。地域医療機関で継続して実施する必修科目「シャドウイング」を医学科に平成24年度に正式導入するための準備を22年度より開始しました。地域医療の実践の場で学習することは学習意欲を高め、その後に行う診療参加型臨床実習の実質化につながることを期待しています。3、4年次に各36コマ相当の時間(計108時間、10ヶ月)を確保し、大学での導入講義、実習(30の地域医療機関等)、まとめを行います。大学では実習開始前の準備教育としてコミュニケーション学習、基本的臨床技能実習も行い、体系的な教育を整備します。

科目「シャドウイング」の目的

  • 地域医療を担う医師としてのプロフェッショナリズムの修得
  1. 診療の実際を理解する
  2. 患者の訴えと希望、医師の対応を理解する
  3. ロールモデルと接し、医師の在り方を考え、キャリア形成と生涯学習を理解する
  4. 地域の医療・保健・福祉と、医師の役割を理解する
  5. 医療現場で医学生としての態度、行動をとることができる
  6. 地域医療への高い関心を持つ
  • 診療参加型臨床実習で医療チームの一員となる準備

離島へき地実習

各学科が必修科目として行っている離島へき地での臨床実習において、健康診断、健康教育を学生が実施して地域住民とふれあい、医療・保健・福祉体制と医療専門職の連携を理解することを目的とします。本取組で拡充するインターネット環境での学生専用PCを用いた学習と遠隔地医療の実際も実習中に体験します。
離島へき地医療人育成センターでは、夏期休業期間に医学科、保健学科、歯学科の希望学生が離島へき地で医療・保健・福祉活動における医療専門職連携(チーム医療)を体験する実習を継続し、さらに選択実習としても提供します。

教育方略

2)指導・運営・評価組織の構築

大学内教育運営組織の構築:医学部連携教育推進部門の設置

本取組の運営にあたり地域に拡大した教育の問題に常時対応できる組織として医歯学教育開発センター内に設置しました。特任教員、医歯学教育開発センター、離島へき地医療人育成センター、保健学科IPE検討部会教員が部門メンバーとして教育計画立と運営、指導者養成、指導者支援に当たります。特任教員は、従来独立して実施されてきた各学科での教育を統合して本取組で新たに実施する実習等の計画、連絡調整、学習成果に関するデータ解析を担当し、地域実習の学生指導教員としての業務も行います。

学内外の連携を図る「地域連携協議会」

地域の医療機関・自治体・医師会・患者団体代表者と学部長、部門メンバーが協議会を組織し、教育の情報共有、学外関係者の意見反映、取組への地域の協力体制を構築します。協議会は評価機関としても機能します。

地域医療機関指導者認定及び受入れ機関の登録

「シャドウイング」
全学生を長期に受け入れる学外の教育組織の拡充を開始しました。学外医療機関で勤務する指導医候補者から臨床・教育経験、専門性、適性を考慮し医学部教員資格審査規定に則った臨床教授等の認定を行います。指導者講習で医学部がめざす教育の理解と教育技能の修得を図り、指導医として採用し、学生を受け入れる医療機関を教育実施機関として登録します。平成22年度から講習会とパイロット実習を開始し、「シャドウイング」が正式導入となる24年度までに30名程度の指導医(臨床教授等)を組織する予定です。取組期間中に臨床教授等は98名から130名程度に増加し、大学教育と密接な連携の取れた地域での教育組織を構築します。

チーム医療教育
チーム医療の理解を目的とした実習では、保健学科が認定した指導者のいる保健・福祉・介護施設等の施設で、保健学科と医学科の学生が協働学習するIPEを予定し、不足する指導者を同様に養成します。離島へき地実習の指導者養成講習会は学内だけではなく離島を含む地域でも実施します。取組初年度に、講習会実施の基盤整備を行い、講習会では、医学部教育到達目標、医療専門職間連携、各実習の目標・方略、学生評価方法、実習評価等について、医歯学教育開発センター専任教員が講師として指導します。

教育の計画・運営


2.教育の評価(ポートフォリオと現場での臨床能力評価)

ポートフォリオは医学教育の評価に極めて重要であり、実際に活用されています。特にプロフェッショナリズムの修得において、学生の気付きや自己の学習に対する考え、自己学習計画を記載するreflective portfolioが、学生の振り返りを促進すると言われています。記載した内容は教員がフィードバックを行う上で重要な情報となり、その情報に基づいて妥当性の高い形成的評価を行うことができると期待しています。
医学部では、ポートフォリオを平成20年度から医学科の一部の科目で取り入れ、平成22年度入学生から卒業まで一貫して利用することとしました。また、本取組では、教育到達目標に掲げた能力の修得段階が把握できるデータベースとなる電子ポートフォリオを、オープンソースの「eポートフォリオ」を基盤に開発しています。PCを地域に配置して記録の利便性を向上させ、医歯学教育開発センター教員が一貫した評価を担当することにより、卒業までのプロフェッショナリズム修得の指導と評価体制を整備します。
本取組の学習成果の評価には、医療現場での学生の行動評価も重要であるため、学外実習指導者は、評定尺度を用いた信頼性の高い臨床能力の評価方法を講習会で修得します。

振り返りとポートフォリオ

1)学習過程におけるポートフォリオの意義

学習過程におけるポートフォリオの意義

2)本取組でのポートフォリオの作成と評価

本取組でのポートフォリオの作成と評価


3.教育成果の共有

多数の指導者が複数学科の学生に対し長期間にわたって実施する教育の成果を、当事者がその場で理解することは困難な場合が多いものです。教育実施上の問題点を明らかにして実習中には明確ではなかった学習成果を共有し、さらに新たな専門職連携のあり方について学習し、教育の改善を図る機会として、指導者と学生が「地域医療の学習」「チーム医療の学習」について連携教育での体験と意見を発表する教育フォーラムを開催します。


4.他大学への波及効果

医学教育での早期体験実習は一般的になってきましたが、シャドウイングを継続的に地域で行い、診療参加型臨床実習に発展させるプログラムは新しい試みです。3,4年次の臨床実習準備教育や地域医療教育、プロフェッショナリズムの教育として他大学のニーズにも対応できる計画です。本取組で構築する地域での教育組織は、大学を中心として行われていた医学教育の欠点を補う新しい体制として、他大学が取り入れて効果を上げることが期待できるものです。また、電子ポートフォリオは全ての医学部で有用です。
卒後研修制度の変更と医師不足・偏在に起因する大学の指導医数減少が指摘される状況でありながら、医師不足対策のために増加した学生を教育して学習成果を保証しなければならないという医学部が直面している深刻な問題に対して、本取組で提案する一貫教育、場、指導体制は新たな解決策として他大学に提案できるものと考えております。