当分野が担当する教育(学生へのメッセージも含めて)
令和3年6月3日
小戝健一郎
当分野では、医学の最も基盤となる「解剖学」と、最先端医学研究・応用に必須な「最先端医学・生命科学」の教育を行っています。この二つの教育分野は、最長の歴史を持つ学問、最先端の学問という点で、全く対照的です。しかし一方で共通しているのは、「医学と生命科学の根幹をなす」ということです。よって、「医師、研究者、あるいは医学・医療に関係する社会人になる」という自覚、責任感、モチベーションの喚起、その人格形成という点で、特に重要な教育分野と思っています。
私自身は小児科医(現在も専門医)、病理医を経て、多くの患者さんを救いたいと思い、分子細胞生物学を中心とした多様な生命科学・先端医学の研究に携わり、遺伝子治療と再生医療という次世代の最先端治療法を開発する基礎研究とその応用を専門とするようになりました。この研究分野では、先端医学・生命科学の知識のみならず、患者さんでの臨床応用から医薬実用化までの専門知識も必要となります。おそらくこのような両極端な教育分野を一つの研究室が担当しているところは、(多大な負担というだけでなく、両分野とも高度な専門性を必要とするため)国内外でも無いものかと思っております。当分野は僅か3-4名の教員で、研究とその応用開発のみならず、このような多様な分野の教育にも取り組んでいます。それはぜひ未来ある学生にも本質を理解してもらい、社会を牽引する人材育成に貢献したいという願いからです。ただ、もちろん主体は学生自身であり、学問とはあくまで自ら学ぶというのが基本です。自分の人生を真剣に考えて積極的に取り組む学生に、それに本質的に応えることができる教育(見かけだけの「優しい」教育ではなく)を提供したいと思います。赴任して15年になりますが、本学の医学部生や医学・バイオ研究者を目指す他学部学生は、狭い世界での価値判断に陥りがちの環境であるように感じます。後述する当分野の教育、特に自分で積極的に参加できる共通教育や、当分野での研究に携わる自主研究に、ぜひ将来大きな夢を持つ若い学生さんには、積極的に参加してもらえばと願っています。
以下に、当分野が担当する教育について、概説します。
まず近代解剖学は、1543年にベルギーのアンドレアス・ヴェサリウスがその著書である“De humani corporis fabrica”を出版した時に始まりました(日本では種子島に鉄砲が伝来した年に当たります)。ヴェサリウスの研究は、観察に基づく解剖学の基礎となり、人体を目視することの重要性を知らしめ、その後の医学の発展にはかりしれない貢献をなしております。日本では、それから約230 年後の1774 年(安永3年)、杉田玄白らの“解体新書”が発行され、これ以降、日本の解剖学も長足の進歩を遂げることになります。このように、当分野が担当する解剖学は、最も長い歴史を持つ医学の基本となる教育分野であります。解剖学を通して正常な構造を理解し、習得することをなくしては、その後の正常機能や機能異常の理解が必要となる、いかなる医学分野も効率的に学べません。従って、将来どの専門分野の臨床医になるとしても解剖学の知識は必須となります。解剖学は、顕微鏡で各臓器の正常な細胞・組織形態を学ぶ「組織学」、そして体の成り立ちを学ぶ「発生学」、ヒトの肉眼的な構造を学ぶ「肉眼系統解剖学」に分けられます。当分野は医学部医学科の学生を対象とした解剖学において、組織学を「解剖学Ⅰ」で、発生学を「医学生物学」で、その教育を担当しています。
一方、最先端医学・生命科学に関しては、共通教育ならびに社会人への公開授業(https://www.life.kagoshima-u.ac.jp/)として「最先端医療を創出するバイオ研究」を開講しています。これは文系学生や社会人の方でも、最先端の生命科学・基礎医学から臨床応用・実用化まで概要が理解できるように(実際に毎年150-220人の全学部の学生と社会人の方が受講されています)、学内外のエキスパートの先生に各テーマの講義をお願いしています。またさらに各論的な基礎医学の基盤となる生物学については、発生学も含んだ内容として「医学生物学」において教育を行っています。前述のように「医学生物学」は医学科の学部教育ではありますが、公開授業として、社会人の方も受講できるようにしています。
同様に大学院教育においても、解剖学に関しては「人体の構造と機能」(修士)を、最先端医学に関しては「再生・先端医療学」(修士)、「先端医療学」(博士)、「遺伝子治療・再生医学」(博士)を担当しています。
また医学科においては、3年前期の必修科目である「自主研究」だけでなく、医学科1年〜6年生の選択科目である「自主研究A-F」を行っています。これは医学生のうちに、当分野研究室にて最先端の医学研究に携われるというものです。これまで多くの医学生が当分野で研究に携わり、特に熱心な学生は海外の一流英文誌の論文共著者として大きな研究実績も上げています。また他学部の学生でも、空いた時間に本分野で熱心に研究に携わっている方もいます。最先端医学・生命科学に興味のある医学部生、他学部生とも、ぜひ若いうちに当分野にて研究に携わって貰えば、と思っています。
共通教育
最先端医療を創出するバイオ研究(前期)
最先端医療を創出するバイオの研究と技術の概要を学び、がん等の難病に革新的な医薬や医療が新たな取り組みで開発・実用化されている現状について学びます。
詳しい内容についてはmanabaに載せています。
学部教育
医学生物学(生物学基礎と発生学)(1年生後期)
生命体の基本となる細胞や、臓器や生物の発生にいたる生物学の基礎知識を修得するとともに、臨床医学・先端医学における生物学の位置づけを学びます。
解剖学Ⅰ(2年生前期)
ヒトの体を構成する細胞と組織の正常な構造と機能を関連付けて学び、細胞と組織とその発生に関して組織学・解剖学用語(日本語及び英語)を用いて表現・説明することを目指します。
【注意事項】
・解剖学Ⅰの講義・実習の開始は時間厳守です。くれぐれも開始時刻に遅れないようにしてください。
・講義の際には必ずシラバスに記載の指定教科書を持参してください。指定教科書は「ジュンケイラ組織学 第5版(丸善出版) 」です。その他の参考書については講義中にお知らせします。
・実習の際には毎回色鉛筆(12色セットで十分)が必要です。必ず用意してください。スケッチ用紙はこちらで用意します。
・実習時間は、基本的に正規に(時間割に)実習時間が組まれている時間より前には終了しませんので、注意してください。
・講義に関する基本的内容はシラバスに載せていますので、講義前に必ず確認してください(スケジュールや担当講師が急遽変更になる場合は、随時連絡します)。
自主研究(A-F;1-6年生までの間の連続した2期)
基礎医学研究を体験し理解することで、研究の重要性・必要性を認識し、さらに基礎医学から臨床への一連の流れを学びます(研究に興味のある方は1年生からでも是非研究してみませんか)。
自主研究(選択必修:3年生前期)
基礎・臨床・社会医学における研究を体験し、研究の重要性と必要性を認識します。課題を発見して、論理的・批判的に考える事、問題解決する事、さらに研究の計画と実施、結果の解析とまとめなどを学びます。
大学院教育
修士課程
人体の構造と機能(前期)
ヒトを構成する細胞と組織および器官系の構造と機能を学びます。
再生・先端医療学【後期:先端バイオサイエンスコース(選択必修)、高度メディカル専門職コース(自由)】
再生医学について理解し、その研究開発・臨床応用の意義について学びます。また、移植医療について理解し、その実際と問題点について学びます。
博士課程
共通コア科目(選択)
先端医療学(後期)
再生医療や移植医療をはじめとした先端医療について理解し、その研究開発から臨床応用・実用化にいたる総合的な知識と研究手法を習得します。
専門基礎科目
遺伝子治療・再生医学(集中講義)
細胞生物構造学・発生学を理解し、遺伝子治療・再生医学などの先端治療法開発のための知識と研究手法を習得します。
専門科目
遺伝子治療・再生医学演習(集中講義)
遺伝子治療・再生医学実験(集中講義)
遺伝子治療と発生・再生医学の基礎的研究手法を学びます。