このたび鹿児島大学病院泌尿器科教授に就任いたしました榎田英樹でございます。
当教室は私の生まれ年の昭和40年4月に皮膚科学・泌尿器科学講座から分離し開講いたしました。
初代の岡元健一郎教授、第二代目の大井好忠教授、そして先代の中川昌之教授に引き継がれてまいりましたが、令和3年4月より当教室を担当させて頂くこととなりました。
責任の大きさに身が引き締まる思いですが、どうぞ宜しくお願い申し上げます。
私は鹿児島県薩摩川内市の出身です。学生時代は剣道部に在籍して勉強はあまりせず日々稽古に励んでいました。
現在、私を支えている強靭な体力はこの時に培われました。
大井教授時代の平成4年6月に入局して、泌尿器科医としてのトレーニングを開始しました。
当時の泌尿器科医局の自由闊達で楽しい雰囲気を今でも覚えています。
平成11年11月に中川教授が赴任されて薫陶を受けました。
ちょうどベッドフリーになって基礎研究を始めるタイミングでしたが、直接のご指導を戴いて「膀胱癌における抗癌剤耐性克服」で学位を取得しました。
その後米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)に留学させて頂き、前立腺癌における遺伝子メチル化について研究しました。
帰国後はマイクロRNAに非常に興味を持ち、「尿中マイクロRNA測定による膀胱癌の新規診断法」で特許を取得し、また「マイクロRNAが制御する分子ネットワーク解明と治療への応用」に取り組み、26人の教室員に学位論文の指導を行いました。
昨今、大学院志望者の減少や研究費獲得の困難さがありますが、大学は研究機関であることの自負を持って教室研究の発展と若手医師の指導に邁進したいと思います。
さて、泌尿器科は泌尿生殖器系の疾患の診断・治療を担当する科ですが、その専門分野はさらに9つほどに分かれ多岐にわたります。
まず泌尿器癌の分野では、近年、男性では罹患数が最も多くなった前立腺癌をはじめ膀胱癌や腎盂・尿管癌、腎癌、精巣癌などの診断と治療を行っています。
手術では、ロボット(ダヴィンチ)を使った内視鏡手術が増加し、当科でも多くの前立腺癌、膀胱癌の全摘あるいは腎癌の部分切除手術で使用しています。転移があり手術では切除不能の癌に対しても最新の臨床治験のデータやオンコパネル解析に基づいて、適切で最善のタイミングでの全身化学療法や放射線治療を提供できるように他科とも協力して取り組んでいます。次に腎不全の治療ですが、血液透析や腹膜透析、さらには腎移植を行っています。
当科では腎移植の普及・啓発活動に努めており、毎年30件近くの腎移植を行っています。
近年では、夫婦間移植や難易度の高いABO血液型不適合移植が全体の半分を占めるようになっています。
一方、小児泌尿器科の分野では先天的に泌尿生殖器に異常を持つ疾患も多くみられ、多くの小児の治療をしています。
これらの治療はそれぞれの分野の専門医資格を持つ医師が担当しています。
さらに、排尿障害・尿路感染症・尿路結石・女性泌尿器科・アンドロロジーなどがあります。
どの分野も非常に重要であり、鹿児島のような地方都市ではまず大学病院がどのような泌尿器疾患でも責任を持って受け入れできる体制を継続することが大切と考えています。
鹿児島は南北600Kmと広く、離島やへき地も多いですが、郡部においても医療過疎が進んでいます。
私が研修医の頃23あった泌尿器科関連病院は現在9つにまで縮小しています。
医療資源の集約化は人口減少や入局者の減少さらに医療の高度化に対応するためある程度はやむを得ないと思いますが、離島・へき地・郡部の患者さんも遅滞なき治療が受けられるように、開業医の先生方ともより密接に連携していく必要があると考えています。
そのため大学病院受診のハードルを下げるべく努力いたします。
このように臨床や研究を充実させるためにはより多くのマンパワーを必要とします。
私のこれからの一番重要な仕事は、一人でも多くの良い泌尿器科医を育てる事と考えています。
そのために医学生に対して如何に泌尿器科の魅力を伝えるか、また教室員には仕事の方向性を如何に提案できるかが鍵と考えます。泌尿器は専門分野が多く、専門医取得後に希望すれば、留学や自己研鑽を積んで各専門分野のスペシャリストになることができて、大きな仕事へのやりがいへ繋がります。
教室員が仕事に夢を持てれば、やる気に繋がり、やる気が出れば診療レベルの向上に繋がり、診療レベルが向上すれば地域医療や、病院収益の向上、大学の知名度アップにも貢献できると思います。
さらに「よく学び、よく遊ぶ」を実践して楽しい雰囲気の泌尿器科教室を作っていこうと思います。
読者の先生方に於かれましても、鹿児島県の医療を支える同志として、お気づきの点がございましたら、これからも叱咤激励、ご指導ご鞭撻のほどを何卒宜しくお願い申し上げます。