科研費研究成果
文部科学省科学研究費
研究代表者 | 研究種目 | 研究期間 | 課題番号 | 研究課題名 |
---|---|---|---|---|
加治 建 | 基盤研究C | H28-H30 | 16K10466 | GLP-2を用いた粘膜免疫増強に基づく革新的感染防御治療法の開発 |
中目 和彦 | 基盤研究C | H28-H30 | 16K10094 | 壊死性腸炎に対するグルカゴンライクペプチドー2を用いた革新的新規治療法の開発 |
川野 孝文(大西 峻) | 基盤研究C | H28-H30 | 16K10095 | ハイドロゲン・ナノバブルを用いた壊死性腸炎に対する画期的治療法の開発 |
山田 和歌 | 基盤研究C | H28-H30 | 16K10434 | 長期絶食・経静脈栄養管理においてグレリンが消化管に与える影響に関する研究 |
山田 耕嗣(家入里志) | 基盤研究C | H28-H30 | 16K11350 | 重症心身障害児に対する3Dスキャナーを用いた腹腔鏡ポートレイアウトシステムの開発 |
大西 峻 | 研究活動スタート支援 | H28-H29 | 16H07090 | 腸管不全関連肝障害の病態解明に基づくグレリン誘導周術期管理治療法の開発 |
向井 基 | 基盤研究C | H29-H31 | 17K10555 | 広範囲腸管切除後の腸管不全関連肝障害の実験的病態解明と新規治療法への展開 |
連 利博 | 基盤研究C | H29-H31 | 17K11514 | 母親由来キメラ細胞が引き起こす胆道閉鎖症の免疫学的病因解明と発症予防の可能性探索 |
町頭 成郎 | 基盤研究C | H29-H31 | 17K10183 | 壊死性腸炎に対するグレリンを用いた発症メカニズム解明と革新的新規予防治療法の開発 |
桝屋 隆太 | 基盤研究C | H29-H31 | 17K11515 | 救命困難な超重症NECに対する大建中湯を用いた実験的予防法開発 |
研究成果
基盤研究C:16K10466、GLP-2を用いた粘膜免疫増強に基づく革新的感染防御治療法の開発
研究実績の概要
完全静脈栄養+GLP-2投与で腸管粘膜局所免疫、全身炎症に及ぼす影響について検討した。実際に使用したラット(Sprague-Dawley種) の平均体重は285g(250-300g)で、セボフルレンを用いた全身麻酔下に中心静脈カテーテル(silastic catheter OD1.6mm)を内頸静脈に留置し、高カロリー輸液(総投与カロリー68.8kcal/kg/day)を14日間投与した。実験群 PN群:PN only、PN低用量群:PN+GLP-2(1 μg/kg/h)、PN中等量群:PN+GLP-2(10μg/kg/h)、PN高用量群:PN+GLP-2(50μg/kg/h)、Sham群:生理食塩水点滴+normal chaw。全グループn=8 14日後に犠死させ、血液採取の後、全小腸及び腸管内洗浄液を採集した。トライツ靱帯から10cm肛門側空腸、回盲部から10cm口側回腸を切除し、HEによる組織学的評価用の組織と残りを凍結保存した。
【結果】体重変化率:PN群2.8±16 g,PN低用量群 3.6±15 g,PN中等量群 12.8±9.1 g,PN高用量群 16.2±7.5 g,sham群18.0±6 gで、sham群が最も体重増加が良好で、GLP-2が増加するにつれて、体重増加も見られていた。 空腸絨毛高(HE染色):PN群 437±16 μm,PN低用量群 462±36μm,PN中等量群 582±72μm ,PN高用量群 608±84μm,sham群611±85μm 空腸陰窩深(HE染色):PN 群 127±6 μm,PN低用量群 121±15μm,PN中等量群 159±22μm ,PN高用量群 161±15μm,sham群159±9.1μm 回腸絨毛高(HE 染色):PN群 299±47 μm,PN低用量群 310±44μm,PN中等量群 428±21μm ,PN高用量群 433±52μm,sham群442±32μm 回腸 陰窩深(HE染色):PN群 102±14 μm,PN低用量群 106±13μm,PN中等量群 125±13μm ,PN高用量群 126±15μm,sham群133±10 μm
基盤研究C:16K10094、壊死性腸炎に対するグルカゴンライクペプチドー2を用いた革新的新規治療法の開発
研究実績の概要
壊死性腸炎(NEC)は新生児、特に低出生体重児に発症する腸管の未熟性、感染等を原因とする腸管の壊死を伴う腸管不全であり、発症すれば高率な死亡率(約40%)を有する疾患である。また手術においては広範囲腸切除により短腸症候群を来す可能性が高い。 近年、早産児、低出生体重児の出生数が増加しており、それに伴い生存率を高めるだけでなく、intact survival(後遺症なき生存)が目指されている。 グルカゴンライクペプチドー2(GLP-2)は腸管に対する成長因子、抗炎症作用を有するペプチドであり、短腸症候群・炎症性腸疾患へ の臨床応用が期待されている。現在、欧米では短腸症候群に対して第3相試験まで進行中である。当研究は壊死性腸炎ラットモデルを 用いてGLP-2の治療効果を証明し、NECへの臨床応用を目指し、新生児のintact survivalの改善、少子高齢化時代における貴重児の健全な成長を目的とするものである。 本年は、まず壊死性腸炎ラットモデルの改良を行った。当科で確立したモデル作製率は60%から70%であったため、プロトコールの変更により80%まで作製率を上げることが出来た。さらにGLP2の効果を検討するために、早期投与群と晩期投与群を作製し、適正量や投与時期と有効性についての検討を行うため実験を開始した。評価は現時点で、組織学的検討と生存率のみであるが、有効性は確かであることが示されている。
基盤研究C:16K10095、ハイドロゲン・ナノバブルを用いた壊死性腸炎に対する画期的治療法の開発
研究実績の概要
本研究は壊死性腸炎モデルラットを用いて、抗酸化物質と言われている、水素の投与により、壊死性腸炎を予防、もしくは治療できないかの治療効果の検討とメカニズムの解明を行う。壊死性腸炎は、フリーラジカルも関与していると考えられており、水抗酸化物質が 、壊死性腸炎の予防、治療に効果が期待できることは、数々の実験で報告されている。水素は抗酸化物質であり、現在、水素ガスは、 心肺停止の患者に、投与する臨床試験が開始されている。また、水素水も、様々な動物実験で用いられているが、水素水自体は、不安定であり、今回は、既存の水素水やガスでの投与でなくナノバブル技術を応用し、水素を含む安定なナノバブルル水であるハイドロゲン・ナノバブルを作成しこれを実験に用いる。動物モデルに関してはすでに当研究グループで確立している方法を用いたが、一日6回の刺激介入が必要であり煩雑であったこと、また、作成率が、60%程度であったことから、改良を必要とした。一日4回の刺激で、刺 激変更を変更したところ、動物モデル作成率が、80%程度にまで上昇することができ、より効率よく実験を進めていけるように工夫した。通常の1気圧での水では、約1.6ppmが自然界の水素分子が溶け込む溶存水素濃度の飽和値であるが、ハイドロゲンナノバブル を用いることにより、水素濃度を2.4ppm程度まで、上昇させることができ壊死性腸炎モデルに現在投与を行う実験を繰り返している状況である。組織確認までは進んでいないが、ざっと観察した限りでは、効果がみられるように感じられ、今後の組織学的検討、生化学的検討、または、分子生物学的検討を追加して行い、効果のほどを検討していく予定である。
基盤研究C:16K10434、長期絶食・経静脈栄養管理においてグレリンが消化管に与える影響に関する研究
研究実績の概要
消化管ホルモンであるグレリンは胃X/A様細胞から分泌され、ほぼ全ての臓器に分布する成長ホルモン放出促進因子受容体(GHS-R,Gro wth Hormone Secretagogues Receptor)のリガンドとして発見され、組織修復・成長に関する様々な生理作用を発揮する。グレリンの腸管粘膜への作用としては、in vitroで腸上皮細胞の増殖を促進するとの報告があるが、その機序はいまだ解明されていない。本研究では、より臨床に近い長期絶食・経静脈栄養ラットモデルを作成し、グレリンの腸管への作用を検討する。また、長期絶食・経静脈栄 養ラットモデルにおいてグレリンの腸管粘膜への作用がみられれば、大量小腸切除を行った短腸・経静脈栄養ラットを作成し、グレリンの残存腸管への作用を検討する。グレリンが効果的な作用を示せば補充療法について至適量、至適時期を検討し、新たな術後管理法を開発する。 本年はまず、長期絶食、経静脈栄養ラットモデルを作成した。ヒトの平均寿命68歳(WHO2012)、ラットの平均寿命は725日であり、長期絶食をヒトの半年間に相当する7日間を観察期間に設定し、経静脈栄養管理を行い手技が確立した。7日間の絶食・経静脈栄養管理ラットでは、合併症である小腸粘膜の萎縮がみられた。これに対しグレリン投与群では空腸絨毛高及び陰窩深の萎縮がグレリン非投与群に比べ軽度であった。グレリン投与が絶食・経静脈栄養管理の合併症である小腸粘膜萎縮に対して効果的であることが示唆されたため、さらに経静脈栄養管理の期間をヒトの1年に相当する14日間に実験を進めている。
基盤研究C:16K11350、重症心身障害児に対する3Dスキャナーを用いた腹腔鏡ポートレイアウトシステムの開発
研究実績の概要
本研究では、体躯変形の著しい重症心身障害患者に対し腹腔鏡下手術を計画する際に、事前に腹腔内容積を計算して腹腔鏡ポートレイアウトを決定するシステムの開発を目標としている。本研究計画では以下のように段階的に研究を進める方針としている。 1.変形モデルでの実験として、I:術者操作領域の測定、II:体表形状測定システムの確立、III:システム統合/モデルの検証 2.臨床例での計測として、I:術者操作領域の測定、II:体表形状測定、Ⅲ.臨床例での検証として、I:臨床応用、II:システム改良、これらの結果をもとに、ポートレイアウトシステムの開発を行う。本年は腹腔鏡下手術における術者操作領域の測定を行った。手術時の鉗子の可動範囲をあらかじめ把握しておくことで、患者の体表 データとの統合により手術操作可能範囲の測定が可能になると考えている。具体的には、腹腔鏡手術モデルを用い、術者の操作する鉗子の動きを光学式マーカーで追跡し、動いた範囲を3次元にログ情報として記録した。結果として鉗子の位置、加速度から、術者の修練により鉗子操作の習熟度を評価出来るまでに、鉗子の移動範囲を測定する技術を習得し得た。 次に体表形状測定システムの確立として、株式会社COM-ONE製3DスキャナーBODY TRACERと3Dデータ解析ソフト内蔵のPCを取得した。 学内倫理規則に則って倫理委員会より研究開始の承認を取得し、変形患者の体表3Dデータの収集を開始した。データ蓄積開始に先立って、手術時の患者体位や測定範囲、測定回数等の測定方法を標準化する作業を行った。
研究活動スタート支援:16H07090、腸管不全関連肝障害の病態解明に基づくグレリン誘導周術期管理治療法の開発
研究実績の概要
本研究では、長期絶食・経静脈栄養管理においてグレリン投与が肝臓、消化管に与える影響を明らかにし、腸肝不全関連肝障害の抑制や残存腸管順応促進に関し新たな周術期管理法を見出したいと考えている。具体的には以下の3点を予定している。(I)長期絶食・経静脈栄養管理を動物モデルで確立し、グレリン投与が肝臓、消化管にどのような影響を与えるかを明らかにする。(II)大量小腸喪失、 術後絶食経静脈栄養管理を動物モデルで確立し、術後の腸肝不全関連肝障害の予防および残存腸管順応にグレリンがどのように関わるかを明らかにする。(III)これらの結果をもとに、グレリン補充療法について至適量、至適時期を検討し、新たな術後管理法を開発する 。
本年はまず長期絶食・経静脈栄養モデルラットのモデル動物の確立を行った。7終齢のSDラットに対し外頸静脈よりカテーテルを挿入 し、24時間の持続点滴を行い絶食管理した。最終的には安定した14日間の経静脈栄養管理に成功しており、動物モデルが確立したと考えている。 また確立したモデル動物に対してグレリンを投与し、長期絶食・経静脈栄養の合併症である腸管絨毛の萎縮や肝障害に対する効果について検討した。とくに空腸において絨毛高および陰窩深の萎縮の予防を認めた。腸肝不全関連肝障害の予防において、腸管順応は極めて重要である。腸管順応を促進できれば、より早期に経腸栄養が可能になり、静脈栄養から離脱できるからである。また長期絶食は 腸管粘膜の萎縮をもたらし、その後の栄養吸収低下につながる。腸管のバリア機能が低下し、Bacteria Translocationによって引き起 こる敗血症を合併するリスクが高まる。今回の実験によって、グレリン投与が長期静脈栄養の合併症である絨毛の萎縮に対して有効な 治療法となり得る結果が得られ、長期経静脈栄養管理において有用である可能性が示された。