教授就任二年を迎えての雑感
鹿児島大学に着任してから2年が過ぎた。教授室の机に座って考える時間はほとんどないほど動き回って(空転も多かったが)、あっという間に流れていった気がする。でもこの二年間に“鹿児島大学血液・膠原病内科 2G(second generation)”は少しずつだが進化していると思う。
まず、診療面。私の前任地が私立大であり、スタッフが働く環境がよく整備されていた(そうでないことも多々あって苛立ったこともあったのかもしれないけど、想い出は美化されるもので、よかったことしか覚えていない)ためかもしれない。しかし、鹿児島大学は私がかつて働いていた2000年から進化していない部分が少なくなかった。外来で骨髄検査をしようとすると、医師が検査室から種々の道具(プレパラート、塗抹標本を作る引き板、チュルク液・・・・・)を集めてきて、プレパラートに1枚ずつ鉛筆で患者さんの名前と検査日を書く作業を終えたら、看護師さんに検査介助をお願いする。骨髄液を吸引すると、医師が塗抹標本を作製し、乾燥させながら、穿刺部の止血確認をする。そのあと、医師が計算板で有核細胞数を数え、入院患者さんの場合はメイギムザ染色まで医師がやる・・・・・。全てセルフであった。私が研修医の時と同じことがそのまま行われていた。しかし、今は穿刺と標本作成以外は看護師さんと検査技師さんが全ての作業をしてくれるようになった。少しだけお願いはしたが、すぐに快く引き受けてくれた。「自発的」にやり始めてくれたこともある。これで医師が検査に要する時間は大幅に短縮した。とてもとても小さなことだ。でも、働きやすく患者さんにとって快適な環境に変えようという気持ちは鹿大病院で仕事をするみんな持っている。変えようとしたら、容易に変わることができる証だ。とてもうれしい。当科の医師一人当たりの収益は院内でもトップレベルらしいが、当科の医師が頑張っているだけでは実現できない、関係するスタッフみんなのおかげである。感謝したい。批判したり失望してやる気をなくしたりする前に「変わろうよ」って言ってみたら、まだまだ進化できるはずだ。
毎日の朝カンファレンスでの、看護師さんを交えたブリーフィング。前任地で行っていたことの踏襲に過ぎないが、当日の化学療法予定の患者さんの検査結果や夜勤帯での状態などの情報を相互に確認して実施の可否を最終判断したうえで、想定される有害事象と支持療法の内容を確認しあう。またその他看護師さんが気になる患者さんの情報を共有する。だいぶ定着してきたし、よく機能していると思う。
この11月からは医局に、待望のクリニカルリサーチコーディネーター(臨床試験等々のサポートをしてくれる)に加わってもらえた。2年経ってようやく探し出したという気がする。体制整備は少しずつではあるけど、進んでいると自己評価したいところだ。
次に、学生教育。6年生のスーパーBSL(鹿児島大学では「クリクラ」という)には、私が着任するまで毎年8人くらい来てくれていたらしい。1年目は例年通り8人来てくれた。前任地でやっていた通りに(そこでは教官がビデオを見せられて、理想的な実習内容を指導されていた)、担当患者さんについてもらって学生に実施可能な医療行為は積極的にやってもらったし、指導医と朝夕の回診をしてもらい、最後は担当症例のプレゼンをしてもらった。学生さんには喜んでもらったつもりでいたが、大きな錯覚だった。今年は当科の希望者はゼロ。これにはかなり折れた。が、方針は変えないことにした。来春、何人来てくれるか楽しみだ。きっとゼロではないはずだが・・・・・・。
研修医教育。20時間以上の時間外勤務が許されない。病棟からの時間外のコールは研修医には行かない。過労はよくない、サービス残業もダメ、もちろんそれは私もよく理解している。でも金曜の夕方から月曜の朝までに担当患者さんに何が起こっても・・・・・・、という初期研修で本当にいい医師が育つのか?という私の葛藤はまだ解決しない。でも、鹿児島だけでなく多くの大学が同じ状況のようだ。多くの患者さんを診たい、commonな病気を診たいと言って、大学ではなく一線の市中病院を選ぶ研修医が多いことと、理屈が合わない気がする。でも、これは私に解決できる問題ではない。この国の研修医制度の成熟を待つことにする。
新入医局員。着任1年目は血液と膠原病にそれぞれ1名ずつ、今年は膠原病1名だった。来春は膠原病2、血液1で確定しそうだ。あと○人入ってくれると期待していたのだが、当科の魅力を伝えきれなかったようだ。それでも、3人というのは当科始まって以来の快挙(2名入局は過去にもあったことらしいので、プラス1に過ぎないが)らしい。当科を選んでくれた彼らが、「本物」になれるように、鹿児島の標準に甘んじることなく、九州の標準、日本の標準になれるように、全力を尽くしてサポートしたいと思っている。
私自身は臨床研究倫理審査委員会の委員長と外来化学療法室の室長をさせてもらっている。ともにとても興味ある仕事でありこれまでの自分の経験を生かすうえでも、指名いただいたことに感謝している。鹿児島大学のため可能な限り貢献したいと思う。
さて、研究。鹿児島は世界的に最も成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)の患者さんが多い地域であり、治療開発を行う上では大きなチャンスがあったが、これまでは残念ながら十分な情報を発信できていなかった。今は、当科でコンダクトする医師主導治験を含む臨床試験、私が事務局をする日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)臨床試験など、臨床研究は積極的に行うことができている。これからは、ATLの治療開発に私たち自身が大きく貢献できたらいいと思っている。一方で基礎研究はまだ十分とは言えない。マンパワーの多くが診療に割かれているなかで、厳しいことはわかっているし、医師は医師のライセンスがなければできない研究に没頭することが優先されるとは思うが、臨床の教室でしかできない基礎研究も同じように進めていくことはこれからの大きな課題だと思う。
医局員は少ないが必死で病棟を守りながら、外勤等では鹿児島県全域の血液と膠原病診療を守ってくれている。非常に頼もしい。今年の春には、当科の収益が大幅にアップしている状況を前に、医局員には「ここまで頑張りすぎなくていいよ。」と言ったが、患者さんが紹介されてくると、重症患者さんがどんなに多くてもつい「何とかならないか」とか、「在院日数が長い」とか、病棟医長に言ってしまっている。いったんは鹿児島を去り、好きなことをやって戻って来た私を両手で支えてくれている医局員には心から感謝している。
この次の二年。私自身の課題は、これまでやってきたことに加えて、鹿児島県内の血液・膠原病診療のコーディネート(県内の医療機関が患者さんに高品質の診療を提供し、かつ医師が疲弊しないという目標のために、みんなが同じ方向を向いて協働する)に、全力を尽くすことだと思っている。今までできなかったことをすることは容易ではないかもしれないが、若い人たちに仕事がしやすい環境を作ることが私のdueだ。そして再来年は来春以上に若者たちに当科を後期研修先として選んでもらいたい。
若い研修医のあなた、卒業が近い医学生のあなた、鹿児島の血液と膠原病診療はこれから大きく発展するはずだ。ぜひ私たちにjoinして一緒に伸びていこう。待っています。