この度、当科の吉田 崇志 医師、野妻 智嗣 講師、髙嶋 博 教授を中心とする研究グループは、HTLV-1関連脊髄症 (HAM) の病態抑制に有効な可能性のある新規治療薬候補を発見し、その成果が神経学分野で権威のある国際医学雑誌『Brain』に掲載されました。本研究は、既存の薬剤から新たな薬効を見出す「ドラッグ・リポジショニング」の手法を用いており、難治性疾患であるHAMの治療開発・早期の臨床応用において重要な一歩となるものです。
HTLV-1関連脊髄症(HAM: HTLV-1-associated myelopathy)は、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の感染によって引き起こされる、慢性進行性の脊髄炎症性疾患です。HTLV-1は世界中で推定500万人以上の感染者が存在しますが、特に日本の南九州地方は世界有数の集積地域として知られています。感染者の多くは無症候ですが、一部の方がこのHAMを発症し、痙性対麻痺(歩行障害)や排尿障害などによってQOL(生活の質)が著しく損なわれます。
HAMは1980年代、当科の第2代教授である納 光弘 先生によって発見・確立された疾患です。発見から40年以上が経過した現在も、進行を停止あるいは治癒させる根治療法は確立されておらず、多くの患者様が安全で有効な治療法を待ち望んでいます。
今回、研究グループは患者様由来の細胞を用いた解析を通じて、多発性硬化症の経口治療薬として臨床応用されている「ジメチルフマル酸(DMF)」が、HAMに対して強力な抑制効果を持つことを明らかにしました 。基礎実験において、DMFは病態の中心を担うHTLV-1感染CD4+ T細胞および過剰活性化したCD8+ T細胞の自発的な増殖を強力に抑制しました 。さらに、神経組織の傷害に関わるIL-6やTNF-α、IFN-γといった炎症性サイトカインの産生を濃度依存的に減少させることも確認されました 。
本薬剤はすでに他疾患で広く使用され一定の安全性が示されており、経口投与が可能であることから、長期的な治療継続を要するHAMにおいて有用な特性を有しています。全く新しい化合物を開発する場合に比べ、治験への移行期間を短縮できるという大きなメリットもあります。
多面的な免疫調節作用をもつDMFは、HAMの有望な治療薬候補となり得ます。今後は実際の患者様への投与を目指した臨床試験の準備を進めるとともに、当科はHAM発見の地として、難病克服に向けた研究を今後も精力的に推進して参ります。
【掲載論文情報】
・掲載誌:Brain(Impact Factor 11.7)
・論文名:Dimethyl fumarate as a promising therapeutic candidate for virus-associated myelopathy
・著者:Takashi Yoshida, Satoshi Nozuma, Masakazu Tanaka, Mika Dozono, Daisuke Kodama, Toshio Matsuzaki, Tomoko Kondo, Ryuji Kubota, and Hiroshi Takashima
なお本研究成果は、2月17日に南日本新聞に紹介していただきました。







