「MIMECK(Mitochondrial Myopathy with Episodic Hyper-Creatine Kinase-emia)」は、反復性にクレアチンキナーゼ(CK)の上昇を伴うミトコンドリアミオパチーで、急性筋症状を呈することからウイルス性筋炎や薬剤性ミオパチー、重症筋無力症などと鑑別が難しい症候群です(Okamoto et al., 2011)SpringerLink。しかし、これまで報告されてきたのは筋生検に基づく病理所見にとどまっており、全身臓器への病理的関与については不明でした。
今回の研究では、当研究室の長友医師らが、MIMECKと診断された女性の剖検症例を対象に、初めて全身の病理所見を包括的に詳細に報告しました
筋肉、心臓、腎臓、中枢神経において、ミトコンドリア病に矛盾しない所見が得られました。これらの臓器の電子顕微鏡検査では、woolly/flocculent electron-dense inclusionsという凝集体を認め、ミトコンドリアTCA回路の機能不全に関連する異常な代謝中間体および関連タンパク質の蓄積が想定されました。
また、中枢神経病理においては、脈絡叢上皮細胞で、核・細胞質の腫大やミトコンドリアのモザイク状分布が認められ、これはMIMECKの中枢に特有な病理と解釈されます。
全体的考察:MIMECKは全身性のミトコンドリア病である
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本例はMIMECKが単なる筋病変に限られない、全身性のミトコンドリア病であることを、剖検データを通じて初めて証明した研究です。
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心、腎、中枢神経、そして脈絡叢に至るまで、ミトコンドリア構造異常および封入体形成が一致して確認されたことは、特徴的かつ重要な知見となります。
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さらに、これらの構造はMELAS、KSS、LHONなど他のミトコンドリア病にも共通点があるものの、脈絡叢の封入体や特有の中枢所見はMIMECK特有の可能性も示唆しています。
臨床的意義と今後への視点
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MIMECKは従来「エピソード性CK上昇を伴う急性型筋症」として語られていましたが、本例では慢性・進行性を示す臨床経過と剖検像が一致し、長期的な全身評価と管理が不可欠であることを明確にしました。
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また、生検と剖検で共通する構造(封入体など)が同定された点は、MIMECKの診断マーカーとして有望であるとされます。
本論文は、MIMECKという稀なミトコンドリア病の全身的病理像を詳細に明らかにした初の報告であり、ミトコンドリア病研究・診療の進展に貢献する重要な足がかりとなります。
これらは「Journal of neurology」に掲載されています。
R. Nagatomo, Y. Hiramatsu, Y. Sakiyama, H. Miyahara, T. Nasu, I. Yamazaki, et al. Systemic mitochondrial involvement in mitochondrial myopathy with episodic hyper-creatine kinase-emia: insights from an autopsy case. Journal of Neurology 2025 Vol. 272 Issue 9
DOI: 10.1007/s00415-025-13326-3
https://dx.doi.org/10.1007/s00415-025-13326-3
最後に、ご献体を提供してくださいました患者様、ご家族のご協力があって、この論文は完成しました。また、全身病理解剖をご担当くださった先生方のご協力なしには、解明しえなかったと思います。全ての方々に感謝いたします。