日本全国の遺伝性末梢神経障害(IPN)患者を対象に, SOD1遺伝子変異を有する患者群(SOD1-IPN)の臨床的・遺伝的特徴を解析し, 報告いたしました.
IPNは末梢神経の変性を特徴とする遺伝性疾患群であり, シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)をはじめとする多様な疾患を含みます. SOD1遺伝子変異はこれまで主に筋萎縮性側索硬化症(ALS)との関連が知られていましたが、稀ながら末梢神経障害を呈した症例が報告されていました.
本研究では, 日本全国のIPN患者1,483名を対象に遺伝子解析を行い, そのうち17名の患者にSOD1遺伝子の病的変異を特定しました. このことはSOD1-IPNがこれまでの想定よりも一般的な疾患である可能性を示唆するとともに, 従来IPN診断の標準的な遺伝子パネルにはSOD1は含まれていないことが多く, これまで見逃されていた可能性があります.
平均発症年齢は47歳で, 軽度の感覚障害や非対称性の筋力低下を示す例が多く, 長さ依存性の運動優位型軸索性ニューロパチーが特徴的でした. 神経伝導検査や針筋電図検査でALSとは異なる特徴を持っています.
SOD1関連疾患に対する分子標的治療(例:Tofersen)が開発され, 早期遺伝学的診断の意義が高まっています. 本研究は, SOD1遺伝子変異がIPNの原因遺伝子の一つである可能性を強く示唆するとともに, SOD1遺伝子スクリーニングをIPN遺伝子診断に取り入れる重要性を示しました.
本研究成果は「Journal of Neurology」に掲載されました。
Masahiro Ando, et al.
SOD1-related inherited peripheral neuropathies in a Japanese cohort: genetic variants and clinical insights.
Journal of Neurology (2025) 272:191