機能性神経症状症(Functional Neurological Symptom Disorder)や転換性障害(Conversion Disorder)は、原因不明に体の麻痺や疼痛、自律神経症状などを来たし、著しく患者の生活を制限する疾患です。過去150年にわたって、その症状から心の葛藤や深層心理の抑圧により発症すると考えられてきました。実際には、患者に心因的な負担が大きいということもみられず、患者間での症状も類似しており、鹿児島大学脳神経内科・老年病学講座では、独自に症例を分析し、原因を検討してきました。今回、当科の永田 らと熊本大学の中根俊成(現 富山大学)らの共同研究 により、症例の約4人に1人に「抗ガングリオニックアセチルコリン受容体抗体(抗gAChR抗体)」が陽性であることを見いだしました。本抗体は、正常者にはほとんどみいだせないものであり、もともと本抗体により自律神経症状や脳・精神の症状を呈することが報告されていました。今回の発表は、多数例で、特に機能性神経症状症の診断基準を満たす患者に絞ったものであり、原因不明の本症の病態を解明する重要な手がかりとなります。
本論文は、2023年2月に論文発表しています(Nagata R et al. Front. Neurol. 2023 Feb 13;14:1137958)。論文の内容の一部をご紹介します。
下の図(Figure 1)では患者の多くが、運動障害、感覚障害、自律神経障害という多彩な症状を持つことを示しています。
下のグラフ(Figure2)ではこういった患者59名のうち27.1%の割合で、抗gAChR抗体と呼ばれる免疫物質が検出されました。抗gAChR抗体は「自己免疫性自律神経節障害」と呼ばれる胃腸・血圧・心拍数・排尿・発汗の障害をきたす自己免疫の病気の原因として考えられていますが、近年では脳の症状、障害も引き起こすことも報告されています。今回の論文ではその抗体が機能性神経症状症/転換性障害に関与している可能性が示されました。
今回の研究では患者の72.9%において、抗gAChR抗体は検出されませんでしたが、それ以外の抗体が関与している可能性が考えられますので、当科では抗体検索を含めた病態究明を継続していきます。
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fneur.2023.1137958/full
Figure 1. Symptoms of the 59 patients with Functional Neurological Symptom Disorder / Conversion Disorder
(Nagata R. et al. Front. Neurol. 2023 Feb 13;14:1137958から引用)
Figure 2. Anti-g-AchR antibodies in patients with Functional Neurological Symptom Disorder / Conversion Disorder
(Nagata R et al. Front. Neurol. 2023 Feb 13;14:1137958から引用)