認知症の新しい原因と治療法の発見
- 人類初の古細菌による感染症の可能性 -
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科、神経内科・老年病学の髙嶋博教授、﨑山佑介医師、神田直昭医師らの研究グループは、同大学難治ウイルス病態制御研究センターの出雲周二教授、京都大学疾患ゲノム疫学の松田文彦教授らとの共同研究により、原因不明の進行性認知症を呈する4症例の原因を追及した結果、世界で初めての古細菌感染による脳脊髄炎であることを見出し、報告しました。
古細菌は、真核生物、細菌(真正細菌)と並んで全生物界を3分する生物グループのひとつで、その形態は真正細菌に近いものの、系統学的かつ生化学的には、真正細菌よりも真核生物に近い生物であります。通常、古細菌は高塩濃度の環境、強酸性の環境、温泉や海底熱水地帯、腐った沼地など、生物の生存にとって非常に過酷な環境に存在します。一方で、ある種の古細菌は動物の口腔内や消化管内に存在することも知られていましたが、ヒトへの病原性はないとの考えが一般的でした。
過去には、歯肉炎を患うヒト口腔内で非特定の古細菌が増加傾向にあるとの報告がありましたが、古細菌がヒトを含めた生物の直接的な疾患原因となることを明らかにした報告はありません。それゆえ、医学の世界では、古細菌による疾患は全く認知されていませんでした。その点では、今回の発見は新しい感染症の世界を切り開き、また治療可能な認知症を発見したとも言えます。
本研究では、南九州のある地域内で発症した原因不明の進行性認知症4症例を対象に、生検脳の病理学的検討を行いました。その結果、通常の感染性生物とは異なり、核や細胞壁を持たない2~7ミクロンの微生物が脳の血管周囲に集簇していることを見出しました。
次に、組織標本上の微生物が存在する部分をレーザーマイクロダイセクション法により切りだし、そこから抽出したDNAを次世代シーケンサーにより網羅的に解析しました。得られた数百万のDNA配列から、データ処理により、混入するヒトDNA情報を除去し、DNA断片のデータ解析を進めた結果、ある種の古細菌DNA断片を2症例で検出しました。
またST合剤(トリメトプリムとスルファメトキサゾールの合剤)とコルチコステロイドの併用療法により、臨床症状の改善を認め、有効な治療法の一つであることを確認しました。
今回我々は、世界で初めての古細菌による人への感染症を発見し、その臨床症状、検査所見を詳細に記載できました。また本疾患に対する有効な治療法を提示できた点も、大変重要な点です。
本発見をきっかけに、多分野にわたり古細菌研究が進むことで、古細菌感染による新たな疾患群が明らかとなることが期待されます。
本研究の成果は米国の神経科学誌(Neurology Neuroimmunology & Neuroinflammation)のサイトからフリーダウンロードが可能です。