網膜硝子体外来
担当医 山切啓太 園田恭志 山下敏史
臨床研究 網膜・脈絡膜構造の検討
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糖尿病黄斑症の治療―前向き試験の経過報告
現在、糖尿病黄斑浮腫に対する治療法には、多くの選択肢があります。現在行われている治療は、大きく分けて3つ。網膜光凝固、硝子体手術、眼局所薬物注入です。
光凝固治療では、発症早期に漏出部位局所にレーザー治療を行う方法と、びまん性黄斑浮腫に対して黄斑部全体に格子状光凝固を行う方法があります。前者は、患者の自覚症状の乏しい時期に発見する必要があり、適応となる症例が限られる点が問題です。また後者は、浮腫の強さによって凝固斑の出方がさまざまで、浮腫が強い場合、過剰凝固になりやすく、浮腫消失時に予想以上に強い凝固瘢痕が生じる事があります。このことは、後年になって凝固斑が中心窩にかかり、視力低下を起こす原因になり、凝固条件設定の難しさが治療の問題となっています。
硝子体手術については、1990年代に福島茂先生1)がその有効性を示されており、その後、多くの報告があります。当教室からも本年、水島由佳(旧姓:下長野)先生2)が、視力と中心窩網膜厚の改善に硝子体手術が有効であったことを報告しています。
最近、ステロイド剤のケナコルト(triamcinolone)や血管新生抑制因子のアバスチン(bevacizumab)などの眼局所注入が盛んに行われており、その有効性が報告されています。しかし、多くの報告は少数例の後ろ向き試験で経過観察期間も短く、長期の治療効果は不明です。
現時点で治療効果について明らかに有効性が示されているのは、無治療対象群を用いた前向き試験が行われている網膜光凝固治療だけです。本来ならば、その他の治療法においても無治療対照群との比較を行うべきですが、多くの治療法の有効性が示されている現在、無治療対照群を作ることは倫理上大きな問題があります。そのため、どのような症例にどんな治療を選択すべきかはっきりした指針がないのが現状です。
今回の前向き試験は、多くの治療の選択肢がある中、どの治療方法が良いのかを考える上での1つの判断材料となるべく計画されました。今回はその結果の一部を紹介します。
両眼性の糖尿病黄斑症 (DME) 患者で、1眼に硝子体手術、反対眼に triamcinolone (TA) の硝子体注入を行い、治療効果に違いがないかを比較検討しました。対象は両眼DME症例で、治療後6か月経過観察を行った9例18眼。結果は図1、2に示すようにTA注入群では視力・中心窩網膜厚ともに硝子体手術群と比較して1か月で改善し3か月、6か月後には悪化する傾向が見られました。一方硝子体手術群では、視力は3か月までは不変で6か月後にやや改善する傾向がありましたが、中心窩網膜厚は6か月後にはやや増加傾向で、6か月の時点で両群間に治療の効果の差は無くなっています。今回の結果からはどちらの治療方法が良いかはっきりしませんが、長期の経過観察では、少なくとも単回のTA注入では硝子体手術を越える治療効果は得られないと考えられます。
- 参考文献
- 1) 福島茂.糖尿病黄斑症に対する硝子体腔内気体注入術,硝子体手術及びその併用手術の検討.眼科臨床医報90(8): 1084.1996.
- 2) Shimonagano Y et al. Results of visual acuity and foveal thickness in diabetic macular edema after vitrectomy. Jpn J Ophthalmol; 51(3): 204-9. 2007.