ごあいさつ
鹿児島大学 眼科 教授 坂本泰二
価値の創造と情報の発信地を目指そう
私が鹿児島大学眼科に奉職して10年が経ちました。日々の仕事に追われて、瞬く間に過ぎ去ったというのが実感ですが、反省する点は多かったと思います。10年前はちょうど小泉首相が誕生したころでした。皆が熱病のように改革を唱え、改革すれば全てうまく行く、改革をしないものは悪であるかのような論調が、世の中を覆っていました。これは大学も同様で、改革の名の下に、政府主導で独立行政法人化などが一気に進みました。しかしながら、改革イコール改善でないことは、大方の予想通りだったようです。
例えば、医学部では、収入を上げよ、教育の実をあげよ、世界一流の研究をせよ等の命が下りていますが、それぞれは相矛盾することで、全てを満足させることは不可能です。ところが、全てを満足させなければ、改革とはいわないそうです。収入を上げるためには、診療時間を延ばして、手術数を増やせば可能ですが、そうすると研究したり、教育したりする時間が不足します。本来、研究や教育の実を上げるには、ある程度のまとまった時間が必要であり、忙しい診療の合間にできるものではないのです。
さらに、最近は全ての事柄に評価が求められ、評価関連事務の量が膨大になり、本来業務を圧迫しています。現状は、改革が目指したものとはほど遠く、すべてにおいて中途半端になっており、むしろ改悪されているようです。 しかし、それを言い訳にすることはできません。
大学の本来の存在意義は、価値の創造とその教育ですが、特に大切なのは価値の創造です。大学が価値の創造を忘れたら、それは専門学校にすぎず、いくら大学改革が行われようと、これは譲れない点だと考えます。ただし、私は何も難しいことをやれといっているのではありません。例をあげれば、我々臨床医は、世の中で良いと評価されている治療を行いますが、それが本当に良いものかどうかを自分の目で観察・評価することが大切です。そして、それを学会などで発表するうちに、世の中の評判と治療の実際はと異なることが、わかってくるでしょう。このことを続けることは、立派な価値の創造と情報の発信なのです。これは、診療に限らず、教育、研究のいずれに関しても同様です。現状に満足することなく、常に一歩先を目指すことこそが、真の改革だと思います。
政府の言う改革の一つである、新臨床研修制度が導入されて3年目になりました。鹿児島大学眼科は、幸いにも一定の入局者を獲得することができています。これは、大学スタッフを始めとした医局員の頑張りや、地元の先生方のご理解のおかげです。ただし、その事に満足するのではなく、鹿児島大学眼科は、価値の創造と情報の発信地となることを目指そうと思います。それが、私の次の5年の目標です。