消化器疾患・生活習慣病学分野
教授 井戸 章雄
今年度、橋渡し研究戦略的推進プログラム・シーズC「非切除膵癌を対象とした腫瘍溶解性ウイルスの腫瘍内局所投与療法の有効性と安全性に関する医師主導治験」がAMEDに採択されました。
私は1990年から3年間カルガリー大学生化学教室でαフェトプロテイン(AFP)の研究に従事し、帰国後、長崎大学でAFP遺伝子プロモーターを用いた肝癌選択的な遺伝子治療の基礎研究を開始しました。1996年6月 宮崎医科大学第二内科(坪内博仁教授)に異動して遺伝子治療の研究を続けていたところ、米国で癌抑制遺伝子p53を導入する遺伝子治療の臨床試験が開始されたことを知りました。早速、私達も日本で肝癌を対象にした遺伝子治療を実施したいと打診しましたが、経皮的な遺伝子導入ではエタノール注入療法を凌ぐことは難しいとの判断で、遺伝子治療をベッドサイドに持ってくることは叶いませんでした。
今年始まった膵癌を対象とした遺伝子治療プロジェクトは、本学の遺伝子治療・再生医学分野 小戝健一郎教授との共同研究で、小戝教授が開発された腫瘍溶解性ウイルスを用いて切除不能膵癌に対する遺伝子治療の医師主導治験を実施するものです。まずは単年度の採択ですが、京都大学医学部附属病院臨床研究総合センター(iACT)のご支援を頂いて、今年度内に治験届を行い、第一症例を採用すべく準備を進めており、進捗次第で次年度から複数年の採択が可能です。京都大学iACTには2002年から現在も取り組んでいる肝細胞増殖因子(HGF)の臨床開発でもご支援を頂いており、再びタッグを組むことになりました。
1990年代に取り組んだ遺伝子治療の基礎研究、HGFの臨床開発で得た医師主導治験のノウハウ、教室の胆・膵グループの膵癌診療実績と優れたスキル(EUS-FNA)、小戝先生との共同研究、そして異なった専門性を持った研究協力者のONE TEAM!、幾つもの点が繋がって、20年以上も前に夢見て、一旦は諦めた遺伝子治療の臨床開発に取り組む機会に恵まれたことに感謝しています。
2019年12月
略歴
1984年 6月 | 長崎大学医学部第一内科 入局 |
1990年 9月 | カルガリー大学医生化学教室 研究員 |
1996年11月 | 宮崎医科大学第二内科 助手 |
1999年12月 | 宮崎医科大学第二内科 兼任講師 |
2001年10月 | 宮崎医科大学第二内科 講師 |
2002年 7月 | 京都大学医学部 助教授(探索医療センター探索医療開発部HGF肝再生医療プロジェクト) |
2007年 7月 | 鹿児島大学大学院消化器疾患・生活習慣病学准教授 |
2014年 1月 | 鹿児島大学大学院消化器疾患・生活習慣病学教授 |