皮膚科の研究紹介

ご挨拶

令和6年4月1日より鹿児島大学医学部皮膚科学教室第7代教授を拝命いたしました。

当教室は、昭和19年(1943年)、皮膚泌尿器科学講座初代教授として椛島強一先生(1944~1946年)が着任されたことに始まります。第二代岡元健一郎教授(1946~65年)の時代に皮膚科と泌尿器科が分離独立し、その後皆見紀久男教授(1966~72年)、田代正昭教授(1972~1992年)、神崎保教授(1992~2006年)、金蔵拓郎教授(2006~2024年)が教室を運営してまいりました。80年以上の歴史を持ち、自由闊達な学風を誇る教室であります。

 

地域から信頼される医療の提供を

この10年で皮膚病の治療は大きく変化しました。従来難治であったアトピー性皮膚炎や乾癬の治療は大きく進歩し、多くの患者が長期間にわたる寛解を実現できるようになりました。また、蕁麻疹やニキビなどの一般的な皮膚疾患においても、治療の選択肢が年々増えています。これらの進歩はとても素晴らしいことですが、同時に患者に適切な医療を提供するために、皮膚科医の責任も大きくなっていると感じています。地域における皮膚科診療の充実のためには、皮膚科の先生方はもちろんのこと、内科や小児科をはじめとする他科の先生方との連携が不可欠です。相互に気軽に紹介しあえるような関係を築いて参りたいと考えています。

クリニックでは人手や費用の観点から困難である治療や各種検査についても、大学病院でできる限りのサポートを提供していきたいと考えています。患者や医療者が当院のサービスをより便利に利用できるよう、当ホームページを随時更新し、最新の情報を提供してまいります。ご活用いただければ幸いです。

 

皮膚科学の発展に貢献できる研究を

大学病院は診療機関であると共に、教育、研究機関でもあります。昨今、研究者や大学院進学を志す医師は減っておりますが、私自身、基礎の研究室で大学院生として学び、その後も臨床の傍ら基礎研究に長年携わってきた経験から、医師も一定期間研究に主体的に関わることが臨床家としての視野を広げるために重要であると考えています。若い医師には、目の前の事象がどのような機序で生じているのかを常に考え、それを解き明かす研究の面白さを味わえるように手助けしていきます。皮膚科学の発展に貢献できるような研究を当教室から発信できるよう、努力する所存です。

 

これからも鹿児島大学皮膚科を地域の皆様から信頼される医療機関として、そして皮膚の健康を守るパートナーとして、貢献できるよう努力してまいります。何かお困りごとやご相談がございましたら、どうぞお気軽にお声掛けください。

令和6年4月 江川形平

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皮膚科の研究紹介

基礎医学研究が臨床現場での成果に繋がる

皮膚科は臨床教室ですが、臨床研究であってもそれを遂行するためには基礎医学研究の知識と経験が不可欠です。臨床医を目指す人も一度は基礎研究を経験することをお勧めします。

基礎研究を経験すると疾患を観る目が変わります。神崎教授は大学院でブタの心筋のピルビン酸代謝に関する研究をされ、その後癌細胞株の樹立など生化学的、細胞生物学的研究を進めておられました。

そのような背景を持った神崎先生のもとへ、ある日、被角血管腫の患者さんが受診されました。『ファブリー病のようだが何かが違う』と感じた神崎先生の好奇心に火が点きました。そしてそれまでに修得されていた基礎医学的経験と知識を総動員してこの症例と家系を徹底的に追求し、臨床症状の異常から電顕的形態の異常、酵素活性の異常そして遺伝子の異常まで解明し Kanzaki disease という疾患概念を確立されました。臨床医の視点と基礎医学の知識が見事に融合・結実した例です。

神崎教授が主宰される鹿児島大学皮膚科では基礎医学研究を大いに奨励しています。

 

医局員それぞれの興味を基礎にした研究を奨励

さて、一つの教室が研究を推進するやり方には二通りあります。一つは教室のテーマを決めて全員がそのテーマに沿った研究をする方法、もう一つはそのようなメインテーマは設定せずに、個人の興味に応じたテーマで研究をする方法です。

多くの基礎教室では前者の方法を取り入れています。基礎の研究室には、そこで行われている研究をやりたい研究者が各地から集まってきます。その集団の構成メンバーはほぼ同じ目的を持って同じ方向を向いて研究を進めます。

一方、臨床教室の構成メンバーは千差万別です。基礎研究と臨床研究をクロスオーバーさせながら研究したい人と徹底的に臨床を極めたい人、あるいは研究機関で研究を続けたい人と開業して自分のオフィスを持ちたい人などなどです。言わばいろんな人が乗り合わせる乗り合いバスのようなものです。

また、私たち臨床医は患者さんを診察しますが、私たちが遭遇する疾患を予想することは勿論できません。予期せぬ研究テーマの卵が前触れもなしに向こうから飛び込んで来るわけです。

このような臨床の状況を考えると、一つのテーマを決めてしまうのは賢明な方法とは思えません。疾患を含めたいろいろな臨床材料にフレキシブルに対応して研究を展開すべきでしょう。

このような理由で鹿児島大学皮膚科ではメインテーマは掲げていません。しかし何もなくては研究が始まりませんのでいくつかの核はあります。それはスタッフが実績を積み重ねてきた研究です。それを紹介します。

 

研究対象は遺伝性代謝性疾患から細胞内情報伝達まで

まず、Kanzaki disease を核とする遺伝性代謝性疾患に関する研究です。現在は Kanzaki diseaseだけでなく関連疾患まで対象を拡げて研究が行なわれています。この研究では電顕の手技、血中・尿中の酵素活性測定などの生化学的手技、遺伝子異常の検索などの分子生物学的手技を学びます。

次に細胞内情報伝達に関する研究です。プロスタグランディンは炎症の重要なメディエーターですが、このプロスタグランディンを産生する酵素はサイクロオキシゲナーゼ (COX) です。熱がある時やどこかが痛い時には解熱鎮痛剤を飲みますが、解熱鎮痛剤は COX の働きを抑えます。

私たちは COX が発癌とも関係していることに注目しています。皮膚癌では COX が正常よりも大量に発現しており、癌細胞の増殖を促進していることを、分子生物学的手法を用いて明らかにしました。現在は皮膚癌で COX の発現がどうして亢進しているのか、そのメカニズムを研究しています。この研究では、細胞培養などの細胞生物学的手技、ウェスタンブロッティング、ノーザンブロッティング、ゲルシフト、プロテインキナーゼ活性の測定、遺伝子の細胞内導入(トランスフェクション)などの分子細胞生物学的手技を学びます。

Basigin/CD147という分子に関する研究も行なっています。これは筆者らが分化に関与する遺伝子としてクローニングした分子で、鹿児島大学オリジナルのものです。現在はベイシジンと皮膚の発生・分化の関係、腫瘍の浸潤におけるベイシジンの役割などについて研究を進めています。この研究でも分子細胞生物学的手技を広く学ぶことができます。

遺伝子異常の解析も大切な核の一つです。これは遺伝子診断という臨床的意義と、遺伝子異常と形態・機能の異常の相関を解明するという学問的意義を内包した重要な研究です。

これまでにX関連外胚葉形成異常症、葉状魚鱗癬、先天性爪甲肥厚症、骨髄性プロトポルフィリン症について遺伝子異常を解析してきました。この研究では核酸の抽出、cDNA の作製、シークエンシングなどの分子生物学的手技を学びます。

以上は皮膚科が中心となって行なっている研究ですが、これらの研究を進めるためには基礎医学教室との協力は不可欠です。また、これら以外にも細胞生物構造学(旧第二解剖学)、分子病態生化学(旧第一生化学)、分子機能生物学(旧第二生化学)、人体がん病理学(旧第二病理学)、免疫病態制御学(旧医動物学)、分子腫瘍学(旧腫瘍研)、血管代謝病態解析学(旧臨床検査医学)、難治ウィルス病態制御研究センター抗ウィルス化学療法分野、分子ウィルス感染研究分野など多くの基礎医学教室との共同研究も積極的に推進しています。その成果はすべて quality journal に報告します。このホームページの『業績』を参照して下さい。

 

自由にテーマを設定して臨床に寄与する研究を

さて鹿児島大学皮膚科教室の研究を紹介してきましたが、決して Kanzaki disease や 外胚葉形成異常症を研究しろ、というわけではありません。これらの疾患に関する研究はあくまでも基礎研究の知識と手技を修得するための手段です。そこで体得したものを基に自由に研究を展開して下さい。大学院で研究し学位を得ることは最終目標ではなく、研究者としてのスタートなのです。Kanzaki diseaseは卓越した業績の一例ですが、これを目標に大学院で得た経験を基に臨床研究に臨んで欲しいと思います。

基礎医学研究は最終的には臨床に寄与すべきで、本来基礎と臨床の境界などあるはずもありません。臨床と基礎を併行して研究する学問、それが皮膚科です。そして前触れもなく飛び込んでくる研究テーマの卵を孵せるかどうか、それは偏に努力と経験と好奇心に懸かっています。

(文責 金蔵拓郎)

入局のすすめ

皮膚から全身を診る-臨床も基礎研究もバランスよく極める-

皮膚科医は皮膚を観ながら全身を診ます。広い内科的な知識が不可欠です。皮膚は人体を包むゴムのような一枚の皮ではありません。皮膚は人体が外界と接する最前線です。皮膚には外界の様子を知るアンテナもあり、体を守る防衛隊の働きもあります。体の内部に異常があれば皮膚にそのサインが現れます。皮膚の内側と外側ではたえず情報のやりとりがあるのです。

皮膚科医は皮膚に現れる変化をこのようにダイナミックに捉えます。実際にどのような診方をしているのでしょうか? それは皮膚科に入ったらお教えします。一緒に勉強しましょう。皮膚科医はメスも持ちます。癌の大手術もやるし、形成外科的な手術もやります。皮膚科医は外科も出来る内科医のようなものです。これが皮膚科の診療科としての楽しさです。

これからの時代、ただ教科書通りに病気を診断して治すだけでは医者として生き残れません。病気の原因に迫る研究、新たな治療法を生み出す研究が求められます。それには基礎医学の知識が必要です。生化学、分子細胞生物学、病理学、解剖学、形態学など広い分野が含まれます。医者になった以上は患者さんを診たい。当然です。一方、研究もやるべきです。臨床と基礎研究を併行してできる科は、グルリと見回すと皮膚科が一番適っているようです。皮膚科の学問としての面白さです。

希望に沿った研究テーマをサポート

-個性を大事にできる医局規模-

それでは鹿児島大学で皮膚を研究しているところはどんなところでしょうか?

総勢三十数名、大き過ぎず、小さ過ぎず、全員の顔を見ようと思えば良く見えるし、チョコッと姿をくらまそうと思えば出来ないこともない、実に適切な規模の集団です。

そこには、ゆっくり歩いて進みたい人、ついつい走ってしまう人、車はノーマルアスピレーションが良いという人、何が何でもターボやらでチューンナップしなけりゃ気がすまない人、いろいろいます。

その個性は大切です。私達は自由を尊重します。臨床の中で、検査でも治療でも、何かこんなことをしてみたい、とあなたが思った時、しっかりと考えた理由さえあれば、まずダメと言うことはありません。研究テーマもこれをやれと押し付けることはありません。希望に沿って研究の方向を決めます。但し、研究はしたいけれども何をしたら良いのか分からない、という人には相応しいテーマを差し上げます。

視野を広げ人生を充実させる

-「世界で初めて」を発見するやりがい-

このような皮膚科で仕事をしていて、充実感を感じるのはどのような時でしょうか。仕事の充実感こそが楽しい人生の礎です。

医学部に入学して医者になろうというような人は、自分の専門領域は一生懸命勉強するでしょう。でも、それは当り前です。それだけでは面白くありません。専門以外にも興味を持っていたいものです。いろいろな分野の人とのつながりを作り、本や論文を多く読んで、右の世界も左の世界も大いなる好奇心を持って覗いて見たいものです。大切なのはそのもう一つ先です。右や左の世界と真中の世界を結ぶ道を探し出すことです。専門以外の分野で得た知識を自分の専門に活かすことです。それが出来た時、その成果は限りなく自分のオリジナルに近いものであり充実感が得られます。そしてこのようなことを繰り返すうちに、視野が大きく広がり、人生が楽しくなります。

皮膚科では、皮膚を対象にしながら内科も外科も基礎医学も勉強します。そうです。皮膚科というのは実は人生を楽しくする学問なのです。鹿児島大学の皮膚科ではこのように人生を楽しみながら、世界で初めての病気、世界で初めての診断法、世界で初めての治療法、皮膚病の原因となる遺伝子異常などを一流の国際誌に続々と発表しています。今この紹介文を読んだあなた、一緒に皮膚科で楽しい人生を送りましょう。

(文責 金蔵拓郎)

 

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