Research (JPN)

問い

大脳皮質は高次認知機能という高度な計算を行います。大脳皮質の局所回路は様々な神経細胞により構成されるため、回路計算はこれらの細胞活動の絶妙なバランスと相互作用の上に成り立ちます。バランスの崩れや不適切な相互作用は、機能障害につながり多くの神経疾患の原因となりえます。

大脳皮質の大きな謎の一つに、機能的多様性があります。例えば、皮質視覚野の細胞は一様に視覚刺激に応答するわけではありません。極めて堅固な視覚応答を示す細胞がいる一方、色々な刺激を試してもなかなか応答しない細胞も多くいます。一見、同じように見える隣り合う細胞が、多様な応答を示すメカニズムは何なのでしょうか?また、多様な細胞がいることは情報処理にどう役立つのでしょうか?

アプローチ

機能的多様性を明らかにするには、技術的な難点があります。機能的多様性自体は、大規模サンプリングを行う実験手法
(例えば、二光子多細胞カルシウム測光法や多チャンネル細胞外電気記録法)
を用いて捉える現象ですが、このような実験手法では、単一細胞を詳細に(例えば細胞内コンパートメントなど)調べるには適していません。結果として、細胞の多様性を生み出す細胞生理学メカニズムに対する理解が進んでいません。

私たちの研究室では、この技術的難点を独自のアプローチで解決しています。個性的な応答を持つ細胞を予めスクリーニングし、その細胞に狙い撃ちでDNA電気穿孔法を用いることで、生体脳において単一細胞にのみプラスミドを発現させます。異なるプラスミドを用いることで、以下のような問いに取り組みます。

  • 個性的な神経細胞は、どのような細胞内コンパートメント処理で生み出されるのか(活動感受性タンパクを発現)。
  • 個性的な神経細胞は、どのような入力を他の細胞から受けているのか(シナプス前細胞トレーシングタンパクを発現)。
  • 個性的な神経細胞は、回路情報処理にどのような影響を与えるのか (活動操作タンパク質を発現)。
  • 個性的な神経細胞は、遺伝的・解剖学的にも個性的のか (マーカータンパク質と単細胞トランスクリプトームや組織透明化を複合的に使用)

現在のプロジェクト

  • 大脳皮質視覚野の非線形計算のメカニズムの解明
  • 大脳皮質前頭前野の報酬嫌悪情報処理のメカニズムの解明
  • 大脳皮質運動野の機能障害回復のメカニズムの解明
  • 脳以外の臓器からの二光子測光技術の確立

技術

  • 二光子多細胞カルシウム測光
  • 二光子細胞内コンパートメント測光
  • 生体脳狙い撃ち単一細胞DNA電気穿孔法
  • 二光子測光・一光子光遺伝学同時並行

病態モデル

  • 脳梗塞
  • アルツハイマー病
  • うつ病