ファイナルレポート
地域提案型研修「離島医療」研修コース
2005年2月21日〜4月22日
1.緒言
JICA(日本国際協力機構)の地域提案型研修「離島医療」研修コースは、2002年9月(平成14年度)に鹿児島県の提案により始まり、今回(平成16年度)で3回目となる。
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科国際島嶼医療学講座(旧離島医療学)ではJICAの依託を受け、離島医療機関はもとより、県本土の医療機関、鹿児島県、市町村および鹿児島大学の多島圏研究センターや大学院医歯学総合研究科など多くの医療・教育・研究・行政機関の協力を得て、研修の実務調整を行っている。
本レポートは、研修生のジョン先生とデキ先生が研修を終えるに当たって、全体の総括と将来におけるアクションプランをまとめたものである。多くの先生方や関係者のお陰で、評価会においても、研修生やJICA担当者から満足のいく高い評価を頂いた。研修生も離島医療を、負の側面ばかりでなく、全人的な地域包括医療が求められ、それが出来る場として理解できたものと考えている。本コースは鹿児島の離島医療が国際的に貢献できる事例の1つであり、今後とも、是非、継続させていきたいと考えている。
本コースを行うに当たっては、下甑村国保直営手打診療所、屋久町栗生診療所、瀬戸内町へき地診療所、県立大島病院、三島村黒島へき地診療所、医療法人誠友会パウナル診療所、今給黎総合病院、鹿児島赤十字病院、鹿児島県保健福祉部医務課、同県立病院課、同総務部国際交流課、与論町、鹿児島大学多島圏研究センター、同地域共同研究センター、同総務部国際交流課、鹿児島大学大学院医歯学総合研究科侵襲制御学分野、同循環器・呼吸器・代謝内科疾患学分野、同神経疾患・老年病学分野、同腫瘍制御学分野、同小児発達機能病態学分野、同医療システム情報学分野、同視覚疾患学分野、同皮膚疾患学分野、同聴覚頭頸部疾患学分野、同機能再建医学分野、同口腔保健推進学分野の多くの先生方や関係諸氏の皆様方にご協力を頂きました。ここに改めてお礼申し上げます。また、本研修を依託して頂いたJICA九州国際センターの笠原秀昭所長や立野敬子調整員を始めとするスタッフの方々、研修生に常時付き添い、コーディネートをして頂いた日本国際協力センターの川上陽子研修監理員に感謝申し上げます。さらに、研修の実務調整を手伝って頂いた新村英士講師を始めとする国際島嶼医療学講座スタッフ、研修生の良き話し相手になってくれた医学科学生諸君にも感謝したします。
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科
国際島嶼医療学講座
教授 嶽崎俊郎
ファイナルレポート
JICA 離島医療 研修コース
フェリシアーノ・ジョン・マティバグ・ジュニア
保健省健康促進センター専門医、担当官、保健員
フィリピン
地理的位置
フィリピンはアジア大陸の南東に位置する発展途上国
7100の島嶼
ルソン島、ビサヤス島、ミンダナオ島
フィリピン諸島の周りには多くの群島
豊かな自然資源に恵まれた東洋の真珠として名高い
総人口、 84,525,639人 [2002年度]
医療におけるフィリピン政府の最優先事項-1
1.公衆衛生改善- 伝染病・非伝染病の減少
2.病院経営改善- 病院投資プラグラム計画に基づいた良質な医療提供が可能な財政的独立経営
3.医療財政- 持続的に国民皆健康保険を改善
4.医療規制 ?医療規制サービスの向上により, 良質かつ安価な薬剤入手を可能にし、効率よく合理的な薬剤の最大限使用
5.地域医療システム開発 / 島における医療開発システム- あらゆる関連機関との協力による開発システム [地方自治体, 医大, 国公立、民間、個人経営による病院、医療機関, 保健省, 健康保険組合 その他関連機関] で良質な医療提供を目指す。
a.医療データのモニタリング情報システム
b.人材管理システム
c.双方向の患者照会システム
d.医療資金調達
e.薬剤管理保険システム
f.地域援助システム
g.医療サービス計画システム
h.質保証システム
リマサワ島 南レイテ フィリピン
南レイテ南端より6マイル
フィリピンで初めてミサ開催
北- リマサワ、ブルゴス海峡; 南- スリガオ海; 東- 太平洋; 西-ボホール海.
6つの村落
総人口- 5,362
感染病 [ 肺炎] 、また 生活習慣病 [ 高血圧/ 循環器疾患 ]も増加傾向にあり主な罹病率、死亡率の原因となる
リマサワ島における医療課題
1.島で勤務するスタッフと医師の確保。
2.医療設備改善のため備品や薬剤の援助が必要。
3.医療従事者の研修が不十分。
4.医療保険の適応範囲が低い。
5.医療予算不足。
6.双方向の照会システムが浸透していない。
7.医療地域援助システム欠如。
第2部 研修内容
下甑島 手打診療所
1.臨床管理、様々な症例の診断処置についての知識。
2.効率的かつ効果的な医療提供のための完璧な医療インフラ設置のメリット。
3.地域の総合医療システム [ 国民健康保険, 介護, 公衆衛生管理 , 福祉センター、訪問看護システム ] のもと、地域住民は医療サービス のみならず患者に優しい環境で思いやりのある対応。
4.遠隔医療システムの活用で効果的かつ効率の良い患者照会システムの実施。
屋久町 栗生診療所
1. 診療所での様々な症例に対する臨床対応、リハビリ、予防対策。
2. 最新の設備を整えることで効果的かつ効率の良い医療サービスの向上。
3. 調剤薬局では、良質で安価なジェネリック 薬剤を増やすといった合理的な薬剤使用でより経済面を重視。健康保険費の削減し、消費者 にとっての最適条件を考慮。
4. 国民健康保険による支払い適応の持続性。
5. “地域総合介護プログラム” による定着した地域援助システムにより高齢者の健康、社会福祉向上のための活動に参加。
6. 環境保護プログラム、 災害時対応準備 実施 住民や旅行者を保護のための最良のモデル。
7.医療計画、健康に関する重要な情報をモニターするより迅速なサービス提供のための機能的な医療情報システム。
三島村 黒島へき地診療所
1.有益な医療サービスモデル 、島民の要求に基づき輪番制で医師が派遣されている。
2.医療サービスの向上を目的とし高齢者に向けのサービスの提供。
3.離島医療向上のため自治医科大学と県との協力による人材確保システム。
4.様々な関係機関からの援助による患者照会システムのを強化、救急の際には適応した行動。
県立大島病院
1.島内での救急対応のため離島中核病院として以下のような態勢、収容能力を持つ :
高度機器と医療インフラ完備
経験豊富で有能な医療従事者 [ 各専門医が常勤 ]
機能的な救急システム [ 重傷救急時の専門医呼び出しシステム、迅速な対応のため緊急時には携帯電話への連絡]
2.救命士、自衛隊、医師依頼、といった機能的なネットワークシステム:
ライフサポート管理システム
血液供給必要時の病院と血液バンクの協力
献血ボランティア
デメリット:
400床の病院にしては、医師数が不足
患者の要求に対応し、医療サービスを提供するためには、人材管理システムが必要
瀬戸内へき地診療所
1.人口11000人ほどの中堅サイズの地域(人口の異なる3島を含む)における医療サービスモデル
2.医療サービスを最大限に有効活用するため官民医療機関が協力を進めている良い事例:市内と3島内の診断、診療入院, 週末休日の緊急対応のシェアリング
3.緊急時の患者照会 の流れを厳格に遵守し、組織的に実行することにより島内の一次 医療機関から緊急時や産婦人科系の手術を要する場合、中核病院への搬送
待機態勢、救急車
中核病院への患者搬送時の医師と看護士同行システム
緊急時の専門医師への連絡システム
3島用の救急ボート待機
4.広範囲にわたる医療サービス実施のため巡回診療バスの利用:
巡回診療バスは各村落で到着を、放送で通告
巡回診療バスは診察室、薬剤収納、待ち合い室、機器を装備。
医師、看護士、事務2名 計4名
携帯用超音波心電計、心電図を装備。
与論島 パナウル診療所
1.治療、投薬、診断、支払い保健請求機能を備えた機能的な情報システムを活用。 容易な事務処理、迅速な対応、納得のいく仕事が可能。
2.血液検査や組織病理検査は 他の組織に依頼。
3.最新機器装備の民間診療所における医療の管理の知識、入院外来患者への迅速な管理治療設備と 十分なスタッフ。
4.ふれあい
診療所では、地域の高齢者の心身健康維持のためゲームや歌スポーツなどの時間をもうけている。
与論町保健センター
1.がん予防のための地域プログラム 病気への意識を促しガン検査を検査バスで実施 [ パパニコラウ スミア, マンモグラフィー, 胸部レントゲン ]
2.健康的な生活スタイル促進のため、エアロビクス教室の開催、歯科検診、栄養食品についての講義開催。
3.母子手帳を活用し 予防接種の重要性、出産前後のケア。
鹿児島県保健福祉部
1.離島医療の資金調達、健康保険、介護保険、医療インフラにおいてより良いサービス供給を目的とし、管理、政治的援助。
2.離島で従事する人材確保のため他機関との協力関係の構築
今給黎総合病院
1.遠隔医療システムにより僻地の診療所との連結を構築、離島での診断や、専門医への意見を求める際に活用。
鹿児島赤十字病院
1.自然災時等の救急援助管理サービスの提供、 主に離島における活動は以下のとおり
災害時に備えた研修
救助活動
被災地への医療チーム派遣、離島への医師配備。
離島における救急時の医師派遣。
鹿児島大学多島圏研究センター
1.研究開発、情報交換、技術、特産物等において他国との国際ネットワークを構築。
鹿児島大学
1.“最高の医療センター”として総合的な医療サービスを提供
2.専門分野 [ 麻酔、外科、薬学、小児科、眼科耳鼻咽喉科など ] の研修機関
3.研修、研究開発の協力センター としてJICA研修員 により深い知識、適当な技術移転を学ぶ良い機会 [ 各科で臨床見学や講義]。
第3部 計画
長期目標 全貧困層向けの良質の医療サービスを提供
中期目標 島の住民の医療へのアクセスを向上
短期目標 離島のコミュニティにおける地域レベルに対応した計画活動の実施
アクションプラン STRATEGIES & ACTIVITIES
第一段階
社会の動員/支持
地方自治体、保健省より資金援助を調達するべく離島医療コースのオリエンテーションを実施
地域の医療プログラム実施の強化
予防接種
フィラリアの集団治療
パパニコラウ スミア, 乳がん検診, 胸部X線
診療と治療
出産前患者管理
自宅出産
村落の診療所と往診
健康的な生活習慣 ? エアロビクスダンス教室開催
第一段階
医療サービス、施設の改善
保健省により品質を保証された医療施設認定の遵守。
医療インフラの改良
フィルヘルス保険組合による医療施設認可に必要な資格との一致
安価な良質のジェネリック薬品の入手
地域のボランティア医療従事者によって運営されているヘルスプラス小売店の設置
健康保険適用範囲拡大
困窮した医療保険プログラムの加入者を増加させるため予算を確保
健康保険制度の重要性を理解してもらうため、農漁業従事者等を対象とした説明会を開催。
島の貧困層の人々の加入を維持させるため他機関からの援助を確保。
第二段階
双方向の患者照会システムの改善
事例管理観察のため島の中心となる医療センターで出産診療所の拡張、
島における診察医療アドバイス用の 電話・無線病院 の設置
救急船と携帯電話の獲得し、中核照会病院への患者搬送システムの実施。
地域における医療システムのモデルとして国内外より財源を確保に集中させ 遠隔医療サポートシステム 事業を開始する
医療データの監視、情報システムの構築
計画開発資金を得て、コンピューターと周辺機器を確保。
コンピューターリタラシー研修の開催
モニタリング、計画のため医療や重要な情報をコンピューターで作成する。
モニタリング・評価の実施
研究の開発
プログラムの見直し と結果のフィードバック
感想
1.離島医療研修により 離島での地域社会における良質な医療サービス提供のための知識を十分に深めることができた。
2.今回の研修は, 医療における変化、改善を照会するため、そして離島で生活する人々のための医療サービスの持続的な改善を目指してこのような “計画行動” を完成できた点でも有益であった。
3.この場を借りてご協力いただいた すべての教授、医師、関係者に謝辞を述べたい。特に、嶽崎先生、新村先生、 瀬戸上先生、藤村先生、 古川先生 、小代先生 JICA 立野さんほか、離島医療研修を支えてくださった皆様、 Domo Arigato Gozaimashita.
オクタビアヌス・デキ
カリタス病院 Waitabula, West Sumba
Province of East Nusa Tenggara
インドネシア
地理的位置
14,000島
東側と比較すると西側はより発展している。
医療システム : 西側 医療状態が良い 東側は悪い
スンバ島
インドネシア東部
2地域
西スンバ : 総人口385,000人
人口増加率 1,87 %
医療機関数
病院 3
プライマリーヘルスセンター 11
無医師診療所 5
医療従事者 : 500 人
カリタス病院、ワイタブラ
西スンバ郊外, 35 km
地域社会に根ざした病院
医師 2名
84 床, 病床利用率 95 %, 外来患者 150-200/日
5 診療所(無医師)
医療状態
死亡原因となる疾病: マラリア, 急性呼吸器感染症 (ARI) , 結核 (TBC)
蔓延病 :マラリア, 急性呼吸器感染症 (ARI) , 結核 (TBC)
医師、看護士、助産士
貧困家庭適用の健康保険が欠如
住民の多くは予防医療の知識がない
医療サービスへのアクセスが難しい
人口の半分は医療費を払えない
研修成果
下甑島 手打診療所
高名な医師率いるすばらしい診療所
患者とのよい関係を育む
外来、入院病棟の見学
往診同行
デイケアセンター訪問
下甑の他の出張診療所訪問
遠隔医療システム見学
屋久町 栗生診療所
日本有数の名医師のひとり
非常に個性的な先生の人柄
全体論法医療
離島医療とは高齢者の生活をサポート
往診とデイケアセンター訪問
鹿児島赤十字病院
離島への医師派遣制度
膠原病センター
骨密度検査バス
術前カンファ見学
三島村 黒島へき地診療所
小人口島
鹿児島赤十字病院が3ヶ月ごとに医師を派遣
救急件数はきわめて少ない
患者診療
鹿児島赤十字病院とのネットワークシステム
患者搬送システム
保健士
鹿児島県保健福祉部
へき地医療の活動をモニタリング
へき地の医療状況をモニタリングし、その向上に努める
今給黎総合病院
民間病院 ( 65名 医師, 450 床 )
最新機器を完備した施設
患者は民間、公立の医療機関どちらでも保険が適用
スンバ島では、保険でカバーされるのは国公立医院のみ
救急患者の対応法
遠隔医療
県立大島病院
中核照会病院
救急システム
救命士研修
入院病棟、外来見学
最新の医療機器を装備
症例にスンバ島と類似性
瀬戸内へき地診療所
島の巡回診療
患者照会システム
診療バス
専門医の訪問
与論パナウル診療所
経験豊富な医師
総体全体論的医学
入院病棟、外来見学
往診
学生、定期健康診断見学
与論保健センター
診療所とは分離した組織
予防医学を重視
健康診断の開催
がん検査
鹿児島大学多島圏研究センター
島嶼における総合的な研究振興を目的とし、島の総合的な理解を促進
鹿児島大学病院
日本でも有数の大型医療機関
離島医療研修のためにうまく構成されたプログラムの準備
地域そして国際社会への貢献
入院病棟、外来の見学
手術室
診断や管理法についての討論
インドネシア(スンバ島)との相違点
専門症例が多い
感染症が少ない
高齢者が多い
国際島嶼医療学講座、循環器・呼吸器代謝内科疾患学、腫瘍制御学科、小児発達機能病態学、神経疾患老年病学、麻酔・蘇生学、医療システム情報学、口腔保健推進学、皮膚科学、眼科学、耳鼻咽喉科学
特別講演 フィラリア撲滅
尾辻教授、中島教授
まとめ
入院外来見学
往診
救急システム、その管理
診療所、病院間の患者紹介システム
巡回診療
診療バス
保健センター、デイケアセンター訪問
定期健康診断
プライマリーヘルスケア
遠隔医療
アクションプラン
1.短期計画
往診
デイケアセンター
予防歯学
保健士の配置
スンバ島とバリ島、ジャワ島間での教育実習病院との連携
バリ島、ジャワ島との患者照会システム
2.長期計画
遠隔医療
医療従事者の数
巡回診療医師
診療バス
フィラリアの撲滅
感想
JICAの離島医療研修コースに参加できた事は絶好の機会であった。 多くの経験と興味深い症例に触れることができ、離島の人々へも、良質な医療提供が可能であることを確認できた。研修後は是非、スンバ島でより良い医療提供、そして医療状態の改善に取り組みたい。
離島の医師はインフラ整備、医療設備、医療従事者の確保といった問題に拘束されてはいるが
If there is a will, there is a way. 真剣に取り組めば道は開かれる。
Make do with what you have. まずは既存のもので最大限の活用をするべきだ。