快感を作り出す脳部位の同定

我々は情動脱力発作(カタプレキシー)を利用して快感を作り出す脳部位の同定に成功しました。情動脱力発作とは、ナルコレプシー(傾眠病)患者に見られる特徴的な発作であり、笑いなどの快情動をきっかけとして四肢の筋肉が弛緩してその場に崩れ落ちる現象です。この発作は意志の力で抑えることはできない、すなわち理性による修飾を受け難いので、快情動の指標とされる接近行動よりもより直裁に情動を反映していると考えられます。情動脱力発作を起こす病態モデルマウスにチョコレートを与えると発作回数が著明に増加することを利用して、チョコレートを与えて発作を起こした直後の脳と、チョコレートを食べたけれども発作を起こさなかった時の脳とを比較しました。脳のほぼ全域を調べましたが、神経細胞の活性に差が見られたのは側坐核のみでした。すなわち、側坐核の活性化が情動脱力発作の原因と推測されました。この推測を更に確認するために側坐核を人工的に活性化したところカタプレキシーが増加し、逆に抑制すると減少しました。これらの結果は側坐核が快情動を作り出す源になっていることを強く示唆しています。また今回の結果は、笑門来福の脳内縁起を研究する手掛かりになると期待されます。

Su J., et al., Sci Rep 10: 4958, doi: 10.1038/s41598-020-61823-4 (2020).

図の説明

A マウス*がチョコレートを食べてから脳サンプルを取り出すまでの手順。発作を起こさなかったマウス(上段)と起こしたマウス(中段:発作終了後、下段:発作開始直後)とを比較することによって発作開始前に活性化された脳部位を特定した。

B マウス脳の断面図。点線の部分で横断面を作ると下図のような構造が見える。赤で示したのは側坐核に投与した薬剤の広がり。

C 側坐核を人工的に活性化(AAV-Gq + CNO)すると発作数(縦軸)が増加し、抑制(AAV-Gi + CNO)すると減少した。

*情動脱力発作モデルマウスとしてオレキシン神経細胞特異的破壊マウスを用いました