教授あいさつ


 

 

 

みなさまへ

 令和2年4月1日付けで鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 精神機能病学分野(鹿児島大学精神科)教授を拝命いたしました中村雅之と申します。鹿児島大学精神機能病学分野は、初代佐藤幹正教授、第2代松本啓教授、第3代瀧川守國教授、第4代佐野輝教授(現鹿児島大学長)と引き継がれ、私で第5代目となります。昭和20年6月に開講されて以来、75年の歴史がある教室です。これまでに歴代教授と門下生の御尽力によって築かれてきた良き伝統を継承するとともに、精神神経医学のさらなる発展を目指します。関係者の皆様におかれましては今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。

診療について

 鹿児島大学病院での精神科診療レベルのさらなる向上に努め、あらゆる精神疾患の治療、他職種と連携したチーム医療、他科領域との有機的連携、精神保健指定医・精神科専門医の育成、地域医療における精神疾患啓発活動の推進などに積極的に取り組みたいと考えております。離島を含む鹿児島県・隣県の基幹病院、実地医科の先生方との連携により精神疾患のトータルケアの実践を目指します。緩和ケア、精神科リエゾンの充実、児童思春期精神医学、認知症を含む老年精神医学の分野を充実させていく所存です。

学生教育について

 医学教育分野別評価基準において、精神科は6つの「重要な診療科」の1つに位置付けられ、十分な期間の診療参加型臨床実習が必要とされるなど、医学教育の中で十分な対応が求められています。この要望に応えるべく、学部学生の臨床実習においては、治療チームの一員として診療に参加する体験を通して、職業的な知識、思考、技能および態度を学ばせていきたいと考えています。また、医学教育は臨床と研究との三位一体の関係性の中で非常に重要であり、臨床医学に加えて、教育の中で研究の方向性を示していくことによって学生のリサーチマインドを伸ばすことが大学の重要な役目であると考えています。

研究について

 統合失調症や大うつ病などの内因性精神疾患については決定的な分子的病因が未だ見つかっていません。精神科臨床を通して強く感じることは、精神疾患の殆どが疾病としては不均一であり、分子的な研究の対象を臨床的に均一な集団として絞り込めていないことが病因解明に至らない大きな要因と考えています。鹿児島は離島が多く、その離島内では、遺伝的・生物学的に均一な疾患群が残存していると推測されます。鹿児島の地域性を利点として大いに活かし、原点に戻り、臨床を通して家系例から生物学的に均一な精神疾患の集団を抽出し、病因解明に近づきたいと考えています。このようなグローカルな研究により世界に先駆けた成果を導き出し、鹿児島から世界に発信するべく今後もさらに研究を進めていく所存です。

精神科専攻医を考えている方へ

 昨今、精神神経医学の分野は大きく変化しています。精神神経疾患は、子どもの発達障害、職場でのうつ病、さらには高齢化に伴う認知症などの患者数が年々増加し、国民に広く関わる疾患として重点的な対策が必要と考えられています。このため精神疾患は平成25年度から厚生労働省の定める地域医療の基本方針となる医療計画に盛り込まれ、5大疾病の1つとなりました。慢性化する疾患も多く、長期入院、身体合併症の問題を抱えています。また疾患対策には医療のみならず福祉・教育関連機関や行政さらには司法などとの幅広い関わりが必要になります。鹿児島県において精神科医療機関を有する大学は鹿児島大学のみです。歴史的にも鹿児島大学病院神経科精神科は、これら多くの機関と協力しながら鹿児島県の精神医療における中心的役割を担っています。
 一人前の精神科医になるためにはどのような専攻医研修が必要でしょうか。大きな医療機関を渡り歩き、多種多彩な精神疾患と患者数をこなす経験を積むことでしょうか。目の前に多くの患者がいて‥幻覚妄想なら抗精神病薬、抑うつ気分なら抗うつ薬、不安ならば‥‥と対症療法を繰り返してしまうことにならないでしょうか。ろくに患者の悩みを聞かない、短絡的な対症療法のみに終始し、考えずに患者を捌く医療を繰り返す医師になってしまうことが危惧されます。このような安っぽい治療は誰でもすぐにできるのではないでしょうか。専攻医の研修ははじめが肝心だと考えています。はじめに数を捌く医療を覚えてしまうと果たしてそこから深まることができるでしょうか。
 私たちの教室では、初めは少人数の担当から始めます。兄貴・姉貴分としてしっかりとした指導医がつきます。1症例ずつ丹念に丹念に視て、診て、考えて、覈えて、患者やその家族とともに悪戦苦闘し、先輩医師や受け持ち看護師、メディカルスタッフからのアドバイスや情報を真摯に謙虚に受けとめ、文献を読み勉強して、勉強して先輩たちを乗り越えて(謙虚さは失わずに)「世界中でこの患者の苦悩について1番理解している」という自負を持つまで診て、受け持ち患者の全体を捉え、再び診る。考えても調べても答えが出ない臨床疑問に対しては研究的思考に落とし込み、研究テーマとしてリサーチを試みるチャンスがあります。ある程度経験がついてきたら、学生や後輩、メディカルスタッフの教育にも携わる機会があります。このような経験を通し精神科医としてのしっかりとした素養を身につけたうえで精神科病院に出向し、多くの経験を積みます。丹念な研修の後には表面的な対症療法に終始することなく患者の苦悩の本質を理解したうえの医療を展開することができるようになると考えています。私たちの教室ではこの様な研修を通し、医師として、精神科医師としてのアイデンティティを育み、他と円滑な連携がとれ、地域の精神神経医療を支えることができる人材を一人でも多く輩出することを目指しています。
 精神医学はどんなに学んでも経験しても謎が付き纏う奥が深い医学領域です。私たちは皆さんとともに学びます。ともに苦しみます。ともに楽しみます。一緒に頑張りませんか?ご連絡をお待ちしています。

参考文献
 中村雅之 鹿児島大学医学部70年史, 鹿児島大学医学部七十年史編集委員会編 鹿児島大学医学部: 254-263, 2014
 堀口淳 精神経誌114: 1226, 2012