鹿児島大学医学部附属病院「総合臨床検査システム」の概要と将来への展望
○中野一司* 松下昌風** 中村勝廣** 山本成夫***
坂本欣一*** 北島 勲* 丸山征郎*
鹿児島大学医学部臨床検査医学講座*
鹿児島大学医学部附属病院検査部**
株式会社エイアンドティー***
Development and Characterization of Total Clinical Laboratory System ,Now and Feature.
Kazushi Nakano*, Masakaze Mstushita**, Katuhiro Nakamura**, Nario Yamamoto***,
Kin-iti Sakamoto***, Isao Kitajima*, Ikuro Maruyama*
Department of Laboratory Medicine, Kagoshima University School of Medicine*
Department of Clinical Laboratory, Kagoshima University Hospital**
A & T Corporation***
- Abstracts:
- We recently developed a new clinical
laboratory system named HIPo.CLATES(Hospital
Intelligent Powers of Clinical Laboratory Automatic
Technogy with Expert System) in Kagoshima university
hospital. Scince this system includes expert system as
this name, diagnotic and therapeutic supports have
been available. Using this HIPo.CLATES we aim for
more proper clinical laboratory in the university
hosipital where we can be carrying out researches and
educations besides routine works. In this paper we
would like to introduce the outline and on-going plans
of the HIPo.CLATES.
- Keywords:
- Clinical laboratory system, LAN,
Eepert system, Diagnosis supporting system.
はじめに
鹿児島大学附属病院検査部では「総合臨床検査システム」を導入し、平成7年5月よ
り本稼働を開始した。HIPo.CLATES(Hospital Intelligent Powers of Clinical Laboratory
Automatic Technology with Expert System)と命名したこの新検査システムには、その名
のようにエキスパートシステムが組み込まれていて、診断支援、検査支援などの各種支
援システムが開発できる環境が整備されている。
ヒポクラテスはギリシャの有名な医師であるが、鹿児島大学のHIPo.CLATESは「検査
値を自動測定吸収して、エキスパートシステムで考え、病気を診断する知力(Intelligent
Powers)を持つスグレ者」という意味である(図1)。
本大学病院では既に病院コンピュータシ
ステムであるTHINK(Total-Hospital Information Network of Kagoshima University)が稼
働していて日常診療に利用されているが、ヒポクラテスのヒポとは上位THINKのサブシ
ステムという意味も含む。
我々はこの新検査システムHIPo.CLATESを利用して、日常検査業務のほか、大学病院
の一部門として本来果たすべき教育、研究のできる本格的な大学検査部の創造を目指す。
ここでは新検査システムHIPo.CLATESの概要および将来への展望につき概説する。
1、HIPo.CLATESの概要
新検査システムHIPo.CLATESは、1)検査情報システム(A&T社 CLINILAN)、2)分析
システム(自動搬送システム、A&T社 CLINILOG)、3)単体分析機器群、4)周辺機器群
(採血管準備システムなど)の4群より構成される(図2)。
新システムでは、1)検体検査のうち生化学検査、血液凝固検査を自動搬送化し(分析
システムの構築)、これら検査分析機器群の全ておよび各検査室間をコンピュータネッ
トワーク(LAN,local area network)でつなぎ(検査情報システムの構築)、さらに3)検
査情報システムを当院のホストコンピュータであるTHINKに直結した(病院内ネットワ
ークの構築)。これらのことで検査情報の流れを円滑化して、検査の迅速化、合理化を
計った。さらに4)検査情報システムにエキスパートシステムを組み込むことで、各種支
援ロジックの開発環境を構築した。
2、検査情報システム
HIPo.CLATESの核となる検査情報システムとしてクライアント/サーバ型分散処理方
式によるネットワーク、コンピューティングを採用し、2台のサーバと各検査室に分散
した29台のパーソナルコンピュータ(クライアント群)をLANで結んだ。これらクライ
アント群の機能端末として、分析システム、各単体分析機器群、採血管準備システムを
接続した。
サーバ2台の内1台は主業務を担当し、THINKとの通信やデータベースの管理を行う。
残りの1台は、主業務サーバのバックアップ機能の他、推論エンジンによりエキスパー
トシステム(ES)を司る。この様に検査情報システムにESを組み込むことで、多量
データの入力が困難という従来のESの弱点をカバーしている。
3、検査情報の流れ
HIPo.CLATESの導入に際し検査部内での採血管の運用を、THINK発行のIDラベルか
ら、HIPo.CLATES発行のバーコドラベルに変更した。このことにより検査部内での受付
業務が省力化され、また分析システムの運用が可能となり、検査情報の流れも円滑化し
て、結果的にオーダから結果報告までの時間が短縮された。また検査部内全体の省力化、
合理化が可能となった。
新システム下での検査情報の流れを外来中央採血室を例に説明すれば(図3A)、各主治医によ
りTHINK端末から入力された検査情報(依頼検査項目、患者名など)は、THINKホス
トを経て、全てHIPo.CLATESの検査情報システムに取り込まれる。中央採血室にある採
血管準備システムでは、患者持参のIDカードをIDリーダーに通すことで、バーコード付
採血管を自動的に発行する。それら採血管を用いて採血された検体は、人手により検査
部受付まで運ばれ、各検査部受付ではバーコードスキャナーにより(分析システムでは
自動的に)受付確認を行い、各分析機にて(自動)測定、必要なら(自動)再検し、検
査情報システムを介してリアルタイムにTHINKに検査結果を返している。
中央採血室以外の外来では、従来通りTHINKのIDラベルで対応し、バーコードラベル
は検査部受付のバーコードラベラーで発行する。
病棟分では、予約オーダ分は外来中央採血室分に準じ、検査部内に設置した採血管準
備システムでバーコード付採血管を検査部内で発行し、検査日前夜に各病棟に配布して
いる。病棟当日オーダは中央採血室以外の外来と同様、THINKのIDラベルで対応し、検
査部受付でバーコードラベルを発行している。(図3B)
4、分析システム
各種分析機器群は検査情報システムの機能端末として位置付けられるが、自動搬送シ
ステムである分析システムもHIPo.CLATES全体から見ると機能端末の一つに過ぎない。
分析システムは、自動遠心、自動開栓の前処理装置、分注装置、生化学分析機、血糖
分析機、電解質分析機、血液凝固分析機が搬送ラインで結ばれ、4台のパーソナルコン
ピュータで制御され(図4)、それらがHIPo.CLATESの検査
情報システムにつながる。(図2)
分析システムの導入により、生化学、電解質、血糖、血液凝固の検査は完全に自動化
された(受付から測定、報告まで一切人手を要しない)。従来の血清、RI検査はオフ
ライン分注器により各検査機器群別に分注され別の場所で測定されるが、これらの検査
機器群も全て検査情報システムとつながっているため、全体的に大幅な検査業務の合理
化、迅速化がなされた。これに伴い従来の生化学検査室、血清検査室、RI検査室で行
っていた検査は、血清検査として1本の試験管にまとめ、必要採血量を少なくした。ま
た、これら3検査室は分析システム部門として1つの組織に統合された。
おわりにー将来への展望
新システムの継続プランとして、血液部門の自動搬送化を図りさらなる合理化を進め
るとともに、生理部門での画像処理を検査情報システムに取り込むことを計画している。
今回、分析システム部門で相当の人員の削減が望めるが、余剰の人員は、これら新企画
の準備に回したり、遺伝子検査などの新しい検査の開発、導入などに回すことで、新た
な発展性のある大学検査部を構築していこうと考えている。
これらの環境下で、将来的にHIPo.CLATES内で開発できた診断支援などの各種支援シ
ステムは、THINKを介し、院内の医療従事者や学生の日常診療や教育に利用されること
を考えている。さらに今後進むであろう各医療施設間のコンピュータネットワークを介
して、これらの支援システムが利用され、僻地、離島診療などに利用されることを考え
ている。また、これらのネットワークを利用することで各医療機関間での2重3重の検
査をなくし、医療経済的にも貢献できるものと期待している。